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マネジメント力強化方法の設計とトレーニング実務

マネジメント力強化方法の設計とトレーニング実務

マネジメントはスキル

今はプレイングマネージャーが増える一方、働き方改革で勤務時間は削減され、パワハラ規制の強化により部下指導のあり方も昔とは大きく変わりました。こんなにもマネジメント層にとって辛い時代はありません。じゃあどうしろっていうんだ、そんな気持ちにもなりますよね。

暗いニュースばかりに目が行ってしまいがちですが、優れたマネジメントは組織や個人の変革に大きく寄与します。部下の心に一生残る恩師にもなり得ます。人の心に深く印象付け、その人の人生にまで影響を与え得る、これもまたマネジメントの側面であり、醍醐味とも言えます。

マネジメント力は「スキル」です。ですが優れたマネジメントを行うためには同時に「心」が必要になります。
いずれも後天的に身につくものであり、鍛えることが可能です。では、どのようにすればマネジメント力を強化できるのでしょうか。

個人的にはマネジメント力を「育てる」ことはできないと考えています。「育てる」のではなく「育つ」ものだと思っています。ニュアンスの違いだけで人によっては「それって『育てる』と同じ意味じゃん」と感じられますよね。

なぜこんな些細な表現にこだわるかというと、言葉の選び方で心の持ち用も大きく変わるからです。人は自ら「変わる」ことを選択します。どんなに外部からの刺激を受けても、当の本人が変わろうとしなければ残念ながら変化も成長も起こりません。

だからこそ、人事の研修担当や現場で後進育成に関わる方は「何でここまで指導してやってるのに変わらないんだ!」と怒ることはやめませんか。
というよりも、怒っても仕方がないという方が正しい表現かもしれません。大切なのは、どうすれば本人が自ら変わることを選択できるようになるか、どのような環境を用意すれば良いのか?ではないでしょうか。

そもそもマネジメントとは何か

そもそもあなたの会社における「マネジメント」って何でしょうか? 
ちなみに広辞苑曰く「『管理・処理・経営』、および『経営者、経営陣』」だそうです。何だかわかるようなわからないような・・・

マネジメントとリーダーシップをごちゃ混ぜにして考えてしまっているケースもあります。自社でマネジメント力を強化したい場合、まずは「マネジメント」とは何か、そして強化したいマネジメント力とは具体的にどのような場面でどんな行動や発言をすることを指しているのかを明確にしていきます。

重要なのは、ありありとイメージできるくらいまで言語化することです。読み手によって解釈が変わり、組織内で認識を統一できないことを避けるためです。そうでないと我流のオンパレードになり、組織としての一貫性も失い、組織長への基準もあってないような形骸化された仕組みになってしまいます。

では具体的にどのようにイメージすれば良いのでしょうか。例えば、「自社にとってマネジメントとは、組織員の力量や業務負荷状況を踏まえた上で組織が抱える業務を適切に配分し、確実な業務遂行を行うための体制を構築・維持すること」と定義できるかもしれません。(表現がかたい・・・)

その上で強化したい「マネジメント力」とは「業務を適切に配分するために組織員の力量を把握してもらう必要がある。そのためには定期的な1on1を通じて組織員の得意不得意や好きな仕事・嫌いな仕事を把握する力と『なぜこの仕事が必要なのか』を示すための目的思考力が必要」となるかもしれません。(これまた文字にすると、か、かたい・・・)

このように自社のマネジメントにおける課題は何か、そしてあるべき姿は何かの”As is”と”To be”分析をしっかりした上で、そのギャップを埋めるためのプログラムを構築していきます。
ここまでくれば何となく感じられる方もいらっしゃると思いますが、何が課題かによってプログラムの手法も全く変わります。

例えば最近ではDX(デジタル・トランスフォーメーション)やデザインシンキング、1on1が主なトピックスとして挙げられることが増えていると感じます。

ですがこれらのキーワードはあくまで手法や理論、つまり枝葉であり、これそのものが幹となるマネジメントではないはずです。どのようにマネジメントを変革したいのか、なぜマネジメント力を強化しなければならないのかといった「ビジョン」が人事の研修担当や経営陣の中で共有されていなければ、マネジメント強化施策は確実に失敗すると思います。

マネジメント力強化施策はチェンジマネジメントと同義であり、人事に丸投げではダメだということです。

マネジメント力強化方法と実務

前述してきた観点も含め、マネジメント力強化のためのプログラムを構築すべく、まずはプログラムを構築するにあたり以下の問いについて考えます。

・自社におけるマネジメントとは?
・具体的にどのようなマネジメント力を強化したいのか?
・対象はどのレイヤーか(課長クラス、部長クラス等)?
・理想の姿と現状とのギャップを生んでいる最大の要因は何か?
・プログラムのメインテーマは何か?
・プログラムにはどのようなコンテンツを入れ込むべきか?
・プログラムの実行期間は?
・何を持ってマネジメント力が強化されたと判断するか?
・プログラム終了後にあるべきフォロープログラムは?

それぞれの問いに対する答えを基にプログラムの詳細を作り込んでいきます。この時、現場でのマネジメント経験者を議論に含めると現場から乖離せずに質の高いプログラムを構築できます。

また、事業内容や企業規模によらず一般的に人のマインドや行動が変わるまでには最低でも3~6ヶ月必要と言われます。よって効果的なプログラムを構築する上でのキーワードは「継続的な関わり」です。形式も講義のような一方通行のものだとマネジメント経験者からすれば、「理屈はわかるけど現場はそう甘くないんだ」と正面から受け入れてもらいづらくなります。できればグループディスカッション形式とし、ワークを中心に進めることをお勧めします。

具体的には月1~2回の終日プログラムを半年実施します。最初の1ヶ月目のプログラムでは参加者に自身が思うマネジメントの定義や自分なりのマネジメントとしての理想像、理想像を100とした時に今の自分は何点か、ギャップを埋めるために何をすべきかを考えてもらい、グループ内で共有してもらいます。

一般的にマネジメントを行う職位につく人は孤独であることが多く、誰かに悩みを共有・相談する機会は多くありません。プログラムでは似たような立場にある社員が集まるため自然と参加者同士で共有される悩みも似通い、「そうなんだよな〜! 悩ましいよな〜!」と盛り上がることも多いです。

ただ、このように悩みを共有し自己開示を行うことで初めて、真正面からマネジメントとしての自分の弱みと向き合う土台ができます。自分は一人じゃないんだ、このメンバーと一緒に変わっていくんだ、彼らも頑張っているから自分も頑張るんだ!そういった空気感をプログラムの中で自然と醸成できるかが肝になります。

初回のプログラムの最後には目標とするマネジメントスタイルに向け、状態目標と成果目標を設定し、その実現に向けて次のプログラムまでの1ヶ月間、具体的に取り組むアクションを定めます。

そして、毎月部下にサーベイに回答してもらい定量的にマネジメントの変化を定点観測していきます。サーベイの頻度は企業の文化や状況に応じて決定します。2ヶ月目以降のプログラムでは都度サーベイ結果を各自にフィードバック、参加者全員のサーベイ結果を評価順に並べて発表しても良いかもしれません。

大切なのは、順位ではなく、サーベイ結果の上がり幅が高い参加者が日頃どのような工夫をしているのかを参加者全員にシェアしてもらうことです。それを元に結果が思わしくなかった参加者にも改善策を考えてもらいます。

これを半年間繰り返していくわけですが、プログラムの中では毎度会社が目指すマネジメント像を共有・浸透させるための内容を設けます。
会社として理想とするマネジメントスタイルの上に各参加者独自の色が出ることで、よりその人らしいマネジメントスタイルが確立されると同時に会社の方向性との一貫性も生まれるからです。

今回ご紹介したような形式でプログラムを実施するメリットは、組織を超えてマネジメント層のネットワークを形成できること、それを通じて仲間意識が形成され変化に対するモチベーションが持続しやすいこと、ナレッジをシェアすることで成長速度を加速させられること、部下に対しても「こういうプログラムがあるからサーベイ協力してほしい」と組織全体を巻き込みやすいことなどが挙げられます。

プログラムの最終回では最もサーベイ結果が良かった参加者や上がり幅が高い参加者などを表彰、イベントのように盛り上げて終了します。何よりも「辛かったけどこの半年間、成長できたし楽しかったな」と参加者に思ってもらえるような演出ができるかです。

日々孤独と闘うマネジメント層に対し「あんたらのマネジメントはなってない」と否定するのではなく「マネジメント強化はあなたの負担軽減につながるんだ」と人事の研修担当や経営陣自身が「寄り添うマネジメント」ができれば、自然と自社らしい、素敵なプログラムができるかもしれませんね。

Written by

CANTERA ACADEMY3期卒業。 新卒で伊藤忠商事に入社。入社後は人事・総務部配属となり、新卒採用・海外人事(駐在員処遇、出向対応、現地生活調査等)に従事。2018/7にHR Tech、データ活用組織を立ち上げ、その後全社研修企画も兼務。2019/7より全社で新設された「第8カンパニー」の人事担当を務める。一般社団法人トラストコーチング認定シニアコーチ。
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