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活躍こそがオンボーディングのゴール

活躍こそがオンボーディングのゴール

オンボーディングとは

新しく採用した社員の受け入れにまつわる施策はオンボーディングと呼ばれている。「(飛行機や船に)乗っている」を意味する「on-board」から派生した言葉で、メンバーを迎え入れるためのサポートやその後のプロセスを指している。どんな人でも新たな環境に馴染むのは一定時間がかかるものだが、オンボーディング施策を練り上げることによって、任せきりではなく再現性を持った活躍支援の環境を作っていくことは人事の大切な役目の一つである。では、オンボーディングの設計にあたってどのようなことを考えるべきだろうか。ここでは大きく現場配属前、そして配属後に分けて設計のヒントをまとめていく。

配属前は会社との接点を増やしていくことを心がける

採用内定後から配属までの間は人事部とのやり取りがメインになるだろう。基本的に入社や配属に向けた事務的な手続きばかりだが、少し工夫を凝らすだけでも入社者の安心を高め、自社に対する理解を促進することができる。

・言葉遣いを自社で使われるものに変えていく
例えば社内では「〇〇さん」と気軽に呼び合える文化の企業であれば、入社の手続きから同じくさん付けでやり取りを開始してみてはどうだろうか。選考中はお互い「〇〇様」で呼び合ったり、堅い文体でやり取りをしていた関係から、「〇〇さん」や少し砕けた文体に変わるだけでも関係性は大きく近づいていく。心理的な距離が近づけば、本当に困っていることだけでなく素朴な疑問を聞きやすくなるので、ささやかだが有効なアプローチの一つである。

・入社の手続きはわかりやすく
入社にまつわる手続きは人事であれば当たり前のことばかりかもしれないが、就職・転職者からすると煩雑でわかりにくく、そもそも準備を進めるだけでも不便があるという可能性を忘れては行けない。単純に事務的なステップを伝えるだけでなく、「本書類は前職への依頼が必要」「当社から〇〇日を目安に発送」「入手が難しければ入社後の提出でも可」など、必要な書類の入手経路や納期についてもついでに示せると良いだろう。丁寧な対応は入社者の安心につながるだけでなく、作業をすすめる人事側にとっても対応の手間を減らすことができる。

・入社当日は焦らず、まずは環境に慣れてもらうことを最優先に
待ちに待った入社当日。期待が先行してつい様々な予定を詰め込んでしまいがちだが、入社者は劇的に環境が変化していることを忘れてはならない。社用のPCも初期設定であり、社内のシステムなども初めて触れる状況であれば、単純な作業にも時間がかかって然るべきだろう。予想外に時間がかかってしまうことも織り込んで初日の予定は設計し、早く進んで行ったときに追加で渡せるタスクを用意しておくくらいが程よいだろう。意外と見落としてしまうポイントだが、社内で使われる専門用語・略語をまとめた社内wikiのようなものがあると細かな確認や教える手間が減ったりと効果が大きい。

・入社初期は社員との接点を意図的に作り出す
社員がどの程度仲良く交流をしているかは企業のカルチャーによるところが大きいと思うが、ある程度既存のメンバーとの接点は意図的に作っておくことが望ましいだろう。具体的には入社初日の歓迎会の設定、事業や部署の説明は現場の社員に依頼する、同日入社の同期同士でワークや研修に望んでもらうなど、本人の気質に頼らず接点を増やすことで顔なじみのメンバーを増やしていくことは有効である。特に配属が異なる同期同士で繋がれることは後に部署間をまたぐ交流のきっかけにもなりうるので、偶発する一つのコミュニティとしての支援を行えるようにしたい。

配属後の支援こそが戦略人事の役割

戦略人事の本懐は事業に資する人材支援にある。配属を見届けたらそこで役割を終えるのではなく、配属後こそ入社者のパフォーマンスが上がるような支援ができるように務めたい。

・ハイパフォーマンスを生み出す成長支援
配属後は現場にその後を委ねてしまいがちだが、各配属先やビジネスモデルにおける勝因を見極め、早期にそのポイントだけでも習得できるよう人事も継続的なフォローを実施すべきである。業務を行う考え方や個別具体的な業務の進め方はOJTとして現場で行い、その職種を全うする上での知識やセオリー、ビジネスマンとしての成長に必要なアカウンティング、語学力、ロジカルシンキングなどはOJTとして人事が体系的に構築していくと良いだろう。

・すぐに配属しないほうが良いケースも
ビジネスモデルによっては、入社後すぐに配属をしてしまうのではなく、一定期間は研修として徹底的に必要な知識の習得支援をしたほうが効果的なこともある。例えば人材紹介業では、求人を紹介し、選考の進捗を支援するというオペレーションの技能以上に「どのくらい自分が担当する業界・職種に詳しいか」というナレッジの方が大切なことも多く、そもそもその知識がなくてはオペレーションが回らないという構造になっている。このとき、必要な知識の習得を個人の努力に委ねてしまわず、ある程度事前にフォローすることによって、すぐに配属するよりも高い成果を誰もが上げやすくなるだろう。教育研修を行うには一定の体力が必要であることは間違いないが、小さな構造変化で大きな成果を上げる仕組みを作るのもオンボーディングの大切な観点である。

・配属先との密な連携が大切
配属後まで一貫したオンボーディング施策は人事だけでも現場だけでも作ることができない。入社から配属までの接続を行い、配属後も継続的な支援ができるよう、現場との密な連携は必要不可欠だろう。特に現場では今目の前の成果を上げることに注力していることが多く、経験としてハイパフォーマンスの要点に気づいていても仕組みに落とすところまでたどり着けていない可能性もある。ただ必要な人員数だけではなく、活躍のために必要なスキルなど定性面も含めた人材支援を行えるようにしたい。

何度でも新鮮に、ウェルカムな空気づくりを

特に勢いのある会社ではありがちな風景だが、当初は何もせずとも、入社を特別なイベントとして盛り上げることができていたのに、毎月のように入社が続いてくるとすっかり社内では慣れてしまい、ついおざなりな対応になってしまうことは珍しくない。だが、新しく入ってくるメンバーからしたらどんなことも初めてで、新鮮に映ることを忘れては行けない。どれだけ素晴らしい料理であっても、接客の態度や盛り付けが悪ければ、感動的な食事にはならないだろう。施策を練り上げたり、セオリーを押さえることは勿論大切だが、たとえ十分な準備ができなかったとしても「あなたの入社を心から待っていたよ!」というスタンスは忘れずにありたい。オンボーディング施策の多くは、ちょっとした気配りから始められることがほとんどである。採用決定から成果を上げるまでの道のりを意識し、その花道を作ってあげることが大切だ。

Written by

Masaki_Tanaka
CANTERA ACADEMY4期卒業。 大学卒業後、障害者雇用支援のパイオニアであるゼネラルパートナーズに入社。法人営業、新規事業の立ち上げを経て人事マネジャーを経験。現在はエネルギー業界の企業で新卒採用・人材育成に従事。
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