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経営理念と新規事業開発の因果な関係

経営理念と新規事業開発の因果な関係

転職活動は個人の理念が見えるチャンス

「転職してキャリアチェンジするぞ!」と私たちが決断するとき、それは、私たちは個人として「自分の存在意義や役割」や「目指したい状態」や「(年収、楽さ、家族との時間、働き方含めた)大事にしたい自分の美学やスタイル」を、ひょっとしたら人生で一番考えるタイミングではないだろうか。

こういったことは、大事なのがわかっていても、こういったことを、考えたり、悩んだり、気づいたり、自分を変えたりする機会はなかなかない。
それにも関わらず、転職となると、新しい一歩を踏み出そうとなった時、心も体もなぜかスイッチが入るという経験はないだろうか。

平時は会社も、経営理念(Mission/Vision/Value)はわかったつもり

実はこれは企業でも一緒でなのである。既存事業は、良くも悪くも、社内に知見が溜まっていて、暗黙知で進めたり、Mission/Vision/Valueを都度意識しなくても、理解もしているし、困らない。

しかし、困らないのはいいのだけれど、その分、Mission/Vision/Valueを真剣に考えるという重要だけど面倒な作業が後回しになったり、表面的な理解で「もう知ってますよ、大丈夫。大事ですよね」で終わってしまう。

ところが新規事業となるとそうはいかないのだ。土地勘のない世界や市場で何かをしなければならない。何をすべきか?私たちがやるべきか?どうやるべきか?他社じゃなくて私たちがやる理由は?

事業性や市場規模や参入障壁や事業シナジーの前に、本来的には、Mission/Vision/Valueにずっぷり浸って考えないとそもそも始まらない世界なのだ。
しかも土地勘がない分野でそれを考えようとすると、経験と勘だけでは乗り越えられない。心と体と頭と仲間を総動員して、解像度を必死で高めないと、「あれ?Mission/Vision/Valueって字面はわかるけど、そもそもどういうことだっけ?」と壁にぶち当たってしまう。
その上、こういう議論をすると、実は人によって解釈や理解がバラバラだったことが、新規事業開発をしなきゃとなったことがきっかけで露呈するのである。
「ああ、もうめんどくさいな!新規事業なんて。儲かればいいんでしょ?」正解や不正解がある世界ではないが、もしそういう発言と決定がまかり通るなら、Mission/Vision/Valueは飾りでしかなかったということが証明される。

だから私たちに残された道は以下の通りとなる。

1)Mission/Vision/Valueを捨てる(あるいは形式的なものとして割り切る)
2)納得がいくものに作り変える
3)(本当の意味で)浸透していなかった事実を受け止め、浸透のためのアクションを取る

新規事業と向き合うことは、Mission/Vision/Valueと向き合う絶好の機会

私は複数の企業で、新規事業立ち上げや新規事業部におけるHRBPの端くれのような仕事を複数回やってきた。キャリアアドバイザーやHR系の事業の責任者も担ってきた。会社によって新規事業に対するスタンスやアプローチは実に多様だったが、上記の新規事業開発とMission/Vision/Valueの関係は共通していた。

ただ、私は新規事業が、ただのMission/Vision/Valueのリトマス試験紙だと言いたい訳ではない。実際にどれだけ本気で新規事業をやるつもりがあろうがなかろうが、既存事業部含めて、「(もし新規事業をやるなら)私たちは何をすべきか、誰にどんな価値を、どういう美学で形にしていきたいか」を考えることが絶好のチャンスなのだ。
その時に必要なエネルギーも、軋轢も、Mission/Vision/Valueを”解像度高く”考え、言葉にして、ぶつけ合う機会になり、それは結果としてMission/Vision/Valueを考え直したり、結果として浸透する機会にもなる。
Mission/Vision/Valueというメガネで、普段接点のない「社会」や「未来」や「自分」と向き合い、自分とバックグラウンドの違う人とぶつけ合うのだから当然のことである。

ちょっとした1時間の空想ミーティングからだっていい

具体的な手法は様々だ。実際に新規事業を今すぐ作るのでなくても、試しに構想することで、社会や未来や自分をMission/Vision/Valueのメガネで見つけ、言語化し、議論する場を持つことも、(うまく場を設計すれば)有効だし、実際に新規事業で悪戦苦闘している場合は、その機会を活かさない手はない。

また、未来の話をする前に、過去の話をすることも有意義だ。ただし、歴史のお勉強ではなく、「かつては”新規事業”だった自社の基幹事業」を捉え直すのだ。何年前かわからないが、自社の基幹事業も元々はゼロからの新規事業。時代が違うとはいえ、当時なりにMission/Vision/Valueで意思決定したり試行錯誤したはずだ。

「綺麗事だね。当時はとにかく利益を出すためにやったのだよ。」と、もしお思いになるのなら、もう一歩深く考えてみてもいいかもしれない。利益を出すのは重要なことだし、仮に利益しか考えていなかったのなら、MissionもVisionもValueも利益を出すこと、なのだ。それでいいならいい。だが、もし、嫌なら作り直せばいい。

しかし、利益が重要だったとしても、他にも儲かる仕事があるならで、その事業や戦い方や社風を選び取ったのには、他にも言語化されていない大切なものがあったのかもしれないし、それを見つける努力は無駄にならない。

新規事業を捉え直す

過去、現在、未来。その視点かは別として、Mission/Vision/Valueと、リスクをとって新たなことに一歩踏み出す新規事業はリンクしている。会社の未来を作る営みなので当然といえば当然だが、実務ではMission/Vision/Valueと新規事業開発は切り離されている。

これを機会に、そういう目で双方を捉え直してみてはいかがだろうか。

Written by

CANTERA ACADEMY9期卒業。 大学卒業後、P&G(外資消費財メーカー)、リクルートで事業企画を経験。その後、キャリアアドバイザー、ヘッドハンター、HRテックや人材系の新規事業責任者などを経て、現在、IT企業の新規事業部で新規事業開発のシニアマネージャーとして従事。現職では、新規事業の立ち上げはもちろんのこと、制度や文化、育成、仕組みなどHRBPの仕事も兼務。 グロービス経営大学院修了(上位5%成績上位優秀者)
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