1on1の質を高める方法

最終更新日:2020/06/28

Writing by:能登隆太

主に上司と部下が1対1で対話する場である1on1。ヤフー株式会社での実施事例が世の中に広く認知され、今では数多くの企業が1on1を導入しています。直近ではコロナの影響でリモートワークが拡充したことで、上司と部下のコミュニケーション頻度を維持すべく1on1を新規導入する企業も増えており、どうすれば1on1の質を高めることができるかといったご相談を頂くことが増えました。

なぜ1on1を実施するのか

いつもご相談頂く度に気になることがあります。それは「何のために1on1を実施しているのか?」ということ。よく聞く理由は、以下3つです。

①導入企業が増えているから
②対話の重要性が高まっているから
③上司が部下のパフォーマンスや業務進捗を適切に把握できるようにするため

①は、それそのものが自社に1on1を導入する理由にはなりませんし、②と③は、日々業務中に交わすコミュニケーションを意識できていれば、わざわざ1on1の時間を設ける必要はないはず。そもそも何のために1on1を行うのでしょうか?なぜ1on1の方が好ましいのでしょうか?

・部下のキャリアを一緒に考えるため
・部下のタスクの進捗を把握して困っていることがないか把握するため
・部下が日頃どんなことを感じているかを把握し職場改善に活かすため

それ以外にもたくさんの理由があると思います。正解はありませんが、自社の状況を踏まえた上で導入目的を明確化することが1on1を成功に導く第一歩になります。

なぜわざわざ1対1で話す時間を設ける必要があるのか

では、なぜ「1対1」で話す時間を設ける必要があるのでしょうか。「普段部下とはコミュニケーション取れてるからあえて1on1の時間を設ける必要はないな」という声を現場からよく聞きます。なぜ、上司が部下一人ひとりとじっくり向き合う時間を設ける必要があるのでしょうか。それには大きく2つの理由があると考えています。

1)個人のキャリア観の変化
日本の企業の多くは、終身雇用を前提にしていました。自身のキャリアに関する選択肢は限られていたし、「この会社でどう活躍し昇進するか」を目標として勤め上げることが普通でした。しかし今では「人生100年時代」と言われるように、働く期間も長期化し、1つの会社で働き続けることは「リスク」と捉える人もいます。こんなにも個人のキャリア観が多様化した時代は、これまで無かったのではないでしょうか。個々がより自律的にキャリアを考えるようになった今、優秀な人材に自社で働き続けてもらうためには、上司が部下の人生における目標や理想とするキャリアを把握することが、必要不可欠になっています。それができなかった時、上司を待ち受けるのは、部下の「びっくり退職」かもしれません。

 2)ビジネス環境の急速な変化
デジタル化による産業構造の変化に伴い、過去の成功パターンでは、そのまま通用しなくなっています。ビジネス環境の不確実性がより高まり、生活者のニーズが多様化する今、部下が安心して自分の意見を言えるような環境作りが、上司の重要ミッションになっています。そのための心理的安全性を確保するには、上司の「聴く力」が問われます。ただ、日々の業務においては即座に意思決定すべき案件も多く、部下の話にじっくりと耳を傾けることは難しいものです。よってあえて1対1で話す時間を設け、上司から部下に対して「問い」を投げかけることで、部下に主役となって話してもらう、そして上司は日々の業務では見ることのできなかった意外な部下の一面や迷いを「聴く」ことで強固な信頼関係の構築を目指します。

なぜ1on1はうまくいかないのか

そうはいっても1on1を導入した企業の多くが「うまくいかない・・・」と悩みを抱えます。一体何が原因なのでしょうか。うまくいかない理由として多いのは以下3つです。

①忙しくて時間を取れない
②日々のコミュニケーションで十分
③何を話していいのかわからないの3つです。

確かに日々目が回るくらい忙しい上司のことを考えると、この3つの理由はごもっともですよね・・・。ですが、この3つの課題を解決するために、部下を持つ方に質問です。
「あなたは、部下にとってどんな上司でありたいですか?」
「あなたは、それぞれの部下とどのような関係性を築きたいですか?」

パッと答えられますか?意外と難しいでしょうか?ほとんどの人は誰しも、誰かの部下として過ごした経験があります。そして、その時の上司のマネジメントスタイルに大きく影響され、無意識に自分の中に取り込んでいます。子が親を真似るようにです。

よって、1人のプレーヤーから部下を持つ管理職になった際、自分なりに「上司としてどうありたいか」を明確化しておかないと、知らぬ間に昔の上司にされたマネジメントスタイルを、そっくりそのまま自分の部下に適用してしまう可能性があります。自分なりの理想的なマネジメント像を定義できれば、部下との対話の時間こそが、上司の仕事であると捉えることも出来るかもしれません。逆にありたい姿が曖昧なままでは、いつまでだっても「一管理職としてこなすべき仕事にどう対処するか」という視点でしか考えることができません。そうなれば1on1の必要性に懐疑的になり前述した①~③の理由が出てきてもおかしくないと思います。

仮に私があなたの部下に「〇〇さんは上司(あなた)のためにがんばりたい!期待にこたえたい!と思いますか?」とヒアリングをしたとします。部下からどんな答えが返ってくると思いますか?この問いに対する部下の答えを想像した時、不安だったり、ゾッとする方は部下との関係性に課題があるかもしれません。そして、その溝を埋めるための機会として1on1が必要になるのだと思います。

1on1の質を高めるポイント

では1on1の必要性を認識したところで、どのようにすれば1on1の質を高めることが出来るのでしょうか。

①まず重要な点は「アドバイスをする上司が、部下から慕われるわけではない」
ということです。今までの社会人人生で、最も印象的だった上司を思い出してみてください。その方はアドバイスが的確だったから最も印象に残ったのでしょうか。おそらく違うと思います。厳しくも愛がある指導をしてくれたり、適切なフィードバックをくれたり、あえて自分に仕事を任せてくれたり・・・色々な理由はあると思いますが、全てに共通するのは「この上司は自分のことをよく見てくれている、気にかけてくれている」と感じられるかどうかだと思います。

例えばちょっとした部下の変化に気づいて声をかけたり、部下に足りない視点を質問やフィードバックを通じて補ったり。そんな些細なアクションでも部下は嬉しいものです。ただ、私たちは厄介なことに、経験を積むと、つい相手にアドバイスをすることが相手にとってもプラスになると思い込んでいます。ですが、相手にとっては大きなお世話だったり、単に話を聞いてほしいと思っているケースだってあるはずです。

それを理解せず、30分の1on1の内、25分は上司である自分が喋っていたなんてことはありませんか? 部下からすれば、もはや悲劇です。1on1は100%部下の時間であることを認識しましょう。実は最近注目されている「コーチング」の唯一のルールは「アドバイスをしないこと」です。あなたにとって「部下の成長につながる1on1」とはどのようなものでしょうか?

②次に重要なのは「1on1以外の時間を、いかに大切にするか」です。1on1を通じて部下の気持ちや考え方の変化に気づいたり、足りない視点を指摘出来るようになるためには、1on1の時間だけを大切にしても不十分です。極論、1日1分でもいいので部下と話す方が大切です。挨拶したり、相談したり、仕事で困っている点を聞いたり・・・。日々部下と頻繁なコミュニケーションを取ることで部下の様子を常に把握できるようになり、結果として1on1の質を高めることに繋がります。

③また、上司の「聴く力」を高めることも大切です。実は話を「聴く」には、高度なスキルが必要だと知っていますか?人は、1分間に150ワード話すのに対し、なんと600ワードも聞けるそうです。つまり聞き手の方に余裕があるのですね。これは何となくイメージできると思います。例えば携帯やPCを打ちながらでも人の話って聞いて理解できますよね? 相手の話を聞きながら、どのように回答しようか並行して考えてますよね?ですが、そんな姿を話し手が見たらどうでしょう。「ちゃんと人の話聞いてんのかな?」と思いますよね。PCでメールを打ちながら部下の話を聞く上司が典型例です。

このように話し手と聞き手で感じ方にギャップが生まれ、互いに対する不信感に繋がります。そうならないように、1on1において聞き手である上司は、100%部下の話に集中し、メモを取らなくても部下の話が頭に残るくらい、聴くことに集中することが重要です。「メラビアンの法則」では、私たちは相手とのコミュニケーションの内、言語から受ける影響はたった7%と言われます。55%が視覚情報であることからも、意識して話を聴かないと、さりげなく相手が発した重要なキーワードを聞き逃す可能性があります。1on1の質を高めるためには、いかに部下の話を聴けるかも重要なポイントなのです。

最後に

1on1の目的は企業によって様々であり、正解はありません。他社の真似をする必要もないと考えています。一方で、1on1は手段であることは忘れてはならず、1on1を通じて何を成し遂げたいのかは常に組織の中で明確化し組織員と共有したいものです。また、部下をお持ちの方は「上司としてありたい姿」や「部下との理想的な関係性」、「1on1を通じた部下育成のあり方」について自分なりの答えを明確化してみませんか?
どうすれば上手に1on1ができるかを考えるのではなく、どうすれば部下の成長をより支援できるかを明確にすることで、結果的に手段としての1on1を有効活用できるようになるかもしれません。

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執筆者

能登隆太

CANTERA ACADEMY3期卒業。

新卒で伊藤忠商事に入社。入社後は人事・総務部配属となり、新卒採用・海外人事(駐在員処遇、出向対応、現地生活調査等)に従事。2018/7にHR Tech、データ活用組織を立ち上げ、その後全社研修企画も兼務。2019/7より全社で新設された「第8カンパニー」の人事担当を務める。

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