CANTERA NOTE

採用ブランディングは「誰に嫌われるか」

採用ブランディングは「誰に嫌われるか」

誰に好かれ、誰に嫌われたいかを明確にする

6月。毎年この時期になると、よく下記のような話を目にする。

「最近の就活生はまず初めに福利厚生を気にしてうんざりだ。」
「研修制度のことばかり気にしていて自分が会社に貢献するという意思を感じられない。」
「今の若者は選考中に普通に、将来は会社を辞めて起業したいとか転職が当たり前の時代だとか言ってきて失礼だ。」

この手の話を見ると、世の中で『採用ブランディング=より多くの人に応募してもらうこと』だと決め付けている人事関係者の多さに驚く。

採用担当にとってのゴールは、自社に合う人材を採用しきることであり、一人でも多くの人間を魅了することではない。
より多くの人を魅了することや、より多くの応募を集めることが、自社に合う人材を採用しきる上での手段として有効なケースがあるのは確かだ。

しかし、それ自体が目的になってはいけない。冒頭の例で言えば、福利厚生ばかり気にする就活生に対してけしからんと感じるのであれば、そのような就活生からの応募が多い時点で、自社の採用ブランディングの敗北である。

選考中に、将来起業や転職で会社を辞める可能性を示唆する候補者が失礼だと思うのであれば、そのような候補者たちとの面接の時間に、自社の面接官の貴重なリソースを割いてしまっている時点で設計ミスである。

事実、福利厚生や研修制度が充実しており、その点で他社との差別化を計る企業もある。そのようにして、できるだけ長く自社で働き続けて欲しい企業はある。

逆に、20代で起業すると覚悟を決めているような、アグレッシブな若者を採用し、数年間だけでもいいから自社で新たな風を吹かせて欲しいと思っている企業もある。

どの就活生、転職者においても、彼ら彼女に問題があるのではない。自社の採用ブランディングがうまくいっていないのである。

福利厚生や研修制度を気にするような就活生はマッチせず、とにかくスキルを伸ばすためにがむしゃらに働く新卒を採用したいなら、エントリーシートの一番目立つところにでも、
「弊社は、とにかくがむしゃらに働き、自分の力は自分で伸ばすという学生を求めています。そのような学生には最高の環境なので是非応募してください。福利厚生や研修制度で会社を選びたい方には不向きです。」と、たった3行記載しておけば解決するだろう。

長い間自社に集中してもらうことが重要であり、入社前から転職や起業を考えている方は合わないなら、その旨を採用サイトの一番上に記しておけば良いのである。

では、なぜそうなっていないのか。それは、就活人気ランキングの上位に名を連ねることに安易に憧れてしまっている、思考停止な人事の多さが原因だと考えられる。新卒採用で言えば、就活生は毎年数十万人いる。もし、自社の新卒採用目標人数が数十万人ならば、就活人気ランキング1位を目指すべきだろう。

しかし、残念ながらそんな企業は日本中探しても一社もない。あったとしても数千人。実際には、多い会社で数百人だ。

採用ブランディングで重要なのは「何人の学生を引きつけるか」以上に「どんな学生を引きつけるか」である(自社の一番の採用課題が、『応募が一件もないこと』なのであればこの限りではない。)。

高級車のメーカーの元に、高級車を買う余裕のない生活を送っている消費者から大量に連絡が来て、安い車はないのかと聞かれても意味がない。
古本屋に、新品の本しか買う気のない顧客を大量に集めて新品がないか探された挙句、何も買わずに帰られてもしょうがないのである。

ここでもう一つ理解しなければならないのが『認められる』ということと『選ばれる』ということは別であるということだ。高級車のメーカーも、見込み顧客ではない層から、あそこの車はいいよねと認められること自体は問題ない。古本屋も、顧客ではない層から、あそこのお店は安いよねと認められること自体は問題ない。
「でも、私たちはあそこまでの高性能な車は求めていないし、高すぎるし、買うなら別のメーカーだね」と認知してもらえているか。「でも、私たちは新品の本を買いたいから、買いに行くなら新刊を売っているお店ね」と理解してもらえているか。それが重要である。

私は、採用ブランディングの最初の一歩は、『誰に好かれたいか』を明確にすることだと考える。それは、裏を返すと『誰に嫌われたいか』を明確にすることでもある。

自社へのマッチ度を応募者自ら適切に判断できるメッセージになっているか?

ここで私が勤めている会社の事例を一つ挙げたい。私が勤めているガイアックスという会社は、新卒入社者の退職理由の6割以上が起業だ。

会社としても、一人一人が自分が使命感を感じる課題に向き合い、そのために働くことを推奨している。結果として様々な領域のビジネスが生まれて来た。

そのような、起業家精神を持つ社員ばかりなのであれば、会社の規則は最低限の方が良い。各自が判断して動いた方が成果が出るからである。ルールを設けると逆に社員の動きを縛り、アウトプットも制限することにつながる。
そのため、リモートワークが自由なのはもちろん、顧客は日本にいるのに本人はヨーロッパに住んでいたり、世界一周しながらweb会議で営業の仕事をしている社員もいる。これはアウトプットを最大化するための手段として発生した、働き方の自由だ。

しかし、それが有名になると、『働き方の自由度が高いこと』自体を魅力に感じてエントリーする就活生が増えた。誰だって働き方の自由度が高いに越したことはないだろう。

だが『働き方の自由度が高いこと』を企業選びの軸にしている就活生は、ガイアックスとマッチしない傾向が高かった。ガイアックスの働き方の自由度が高いのは、『その方が結果的にアウトプットの質が上がるから』である。さらにいうと、『社員が自由に働いていた方が最終的に世の中のためになるから』である。
そこには、『社員全員が、自分で自分のアウトプットの質を高める方法を考えられる』『成果を出すために自己責任が選択をできる』という前提がある。この前提を満たす方は、残念ながら『働きからの自由度』で会社を選ぶ就活生の中には少ない。

そのため、私は『誰にとっても働きやすい会社』と思われかねない発信は極力減らすようにした。代わりに、

・自由と責任はセットである。
・すべて自己責任で判断し、その上で最大限の成果を出す覚悟のある人を求めている。
・会社が管理、育成、教育をするつもりはない。その代わり会社は環境だけ用意して邪魔をしない。
という発信に変えた。

これは、会社から何かを与えられることを受動的に待つ全ての就活生から、嫌われることを決めての方針転換だ。事実、それまで多く応募のあった、働き方の自由度だけで企業を選びたい方からの応募は極端に減った。彼ら彼女らが、ガイアックスに応募しなかった代わりに、自分に合う別の企業の選考に時間を回してくれたのであれば、お互いにとって幸せなことだ。

逆に、企業に縛られずに自分の解決したい課題の解決に集中したいという層や、一番ハードな環境に身を置きたいという層からの応募は増えた。
ただし、トータルのエントリー数で言えば、メッセージングを変える以前よりも減っている。

だが、それは採用担当が果たす役割とは関係ない。やはり、採用担当にとってのゴールは、自社に合う人材を採用しきることであり、一人でも多くの人間を魅了することではない。全ての人に選ばれることを目指すのではなく、誰に好かれ誰には嫌われても良いのかを冷静に見極めなければならない。

Written by

TakumiNagare
CANTERA ACADEMY2期卒業。立教大学経営学部2017年卒。 大学時代はエグゼクティブポジション特化のヘッドハンティング会社でインターン。 就活を経てガイアックスに内定後は、新規事業で内定者インターン。半年間CtoCマーケティングを担当した後、さらに半年間、関西拠点の立ち上げ責任者として大阪にある社長の実家に移り住み、採用、オフィス作り、営業統括、バックオフィス諸々。 2017年新卒入社後は、新卒採用担当、採用マネージャーを経験し、現在はグループ全体の人事支援部門を自ら立ち上げマネージャーを務める。
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