三日坊主にさせない1on1のコツ
1on1は機能しているだろうか
1on1はシリコンバレーからスタートし、日本に導入されたのは2012年ごろと言われています。2017年に発売され、ベストセラーとなったヤフーの本間さんの著書「ヤフーの1on1(ダイヤモンド社)」で本格的に知った方も多いのではないでしょうか。かくいう私も、HRの仕事は2010年から関わっていますが、1on1をきちんと学んだのはこの書籍が発売される前後だったと記憶しています。
1on1はこの数年間でバズワードとして一気に広がり、書籍やセミナーで「1on1をやりましょう!」と声高々に宣言され、あっという間にマネジメントの常識のように定着しました。1on1そのものが有意義な取り組みであることに異論を唱える人は少ないはずです。私も1on1はめちゃくちゃ大事だと思っています。業務時間の20%程度をメンバーとの1on1の時間にあてているくらいです。
しかしながら、世の中の1on1の実態はどうでしょうか?1on1を導入している企業に所属するマネージャーのうち、1on1を定期的に継続できている人は何割くらいなのでしょうか?HRに関わる方なら既に気付いているはずです。1on1は素晴らしいが、継続するのは難しいことを・・・
あがってくるのは1on1へのクレームばかり・・・
「1on1が苦痛でしょうがないんです。密室で数字を詰められるのってパワハラにならないんですか?」「プライベートの話も聴かせてって言われたんですけど、なんか気持ち悪くないですか?」「毎月1on1やってるんだけど、主体性がないというか、全然話してこないから、結局俺が指示とかアドバイスする場になってるんだよね・・・チームMTGでよくない?」「コーチング研修で、部下の話を聴けって言われたんだけど、全然話してくれなくて、沈黙になっちゃうから、いつも5分くらいで終わっちゃうんだよね。」こんな声をよく聞きますが、こんな状態で継続できるんでしょうか?というか、継続する意味はあるのでしょうか?
なぜ1on1は継続できないのか
「なんでも話したいことを話していいよ。」
「1on1はメンバーのための時間だから、私は話を聴くね」
ずばり、これこそが1on1を継続できない理由だと思います。コーチングやキャリアコンサルタントのスタンスと、マネージャーが行う1on1のスタンスが混同しているのです(1on1関連の書籍やセミナーではコーチングの知識も学ぶうえ、著者や講師がコーチング/カウンセリング系の方が多いことも影響していると思います)。私自身は、マネージャーとしてのメンバーとの1on1、企業のHR担当として社員との面談やキャリア相談、採用担当として学生との面談、キャリアコンサルタントとして社外の方からの相談、という様々な形式で年間約600-700時間程度を「個人面談」に費やしています。
それぞれの面談には、それぞれの目的があり、一人ひとりの状況や目指すゴールが違うので、常にそれを意識しながら面談することが求められます。就活中の学生との面談、メンバーとの定期1on1、人事ホットラインの相談窓口として社員の悩みごとのヒヤリング、それぞれの目的、スタンス、質問の内容は異なるのです。「なんでも話したいことを話していいよ。あなたのための時間だよ」がOKなのは、相手から「相談に乗ってほしい、話を聴いてほしい」と依頼された場合のみ通用するスタンスです。マネージャーのあなたの定期1on1はメンバーから「話を聴いてほしい」と依頼されて実施されているのでしょうか?
その1on1、なんのためにやっているのですか?
組織において、マネージャーがメンバーと定期1on1を実施する目的はなんでしょうか?
・目標を達成させるため
・メンバーの成長のため
・メンバーとの信頼関係の構築/維持のため
どれも正解です。ただし、その順番が非常に重要です。MIT元教授のダニエル・キム氏が提唱した「組織の成功循環モデル」では以下のように述べられています。(参照記事:https://www.salesforce.com/jp/blog/2016/06/success-theory.html)
◆グッドサイクル
(1)関係の質:対話、お互いに尊重
(2)思考の質:気づき、良いアイデア
(3)行動の質:新たな挑戦、助け合い
(4)結果の質:成果の実感
(5)関係の質:信頼関係の高まり
◆バッドサイクル
(1)結果の質:成果が上がらない
(2)関係の質:対立、押し付け
(3)思考の質:受け身、失敗回避
(4)行動の質:自分最適、消極的
(5)結果の質:さらに結果が出ない
◆「グッドサイクル」を回すためのツールとして1on1を活用すると
(1)これまでのキャリアや、人となり、価値観などをお互いに自己開示する
→関係の質の向上
(2)この会社で得たい経験やキャリア、スキルを確認(Will-Can-Must)
→関係の質、思考の質の向上
(3)本人のキャリアイメージ、Will-Can-Mustを意識した短期/中長期の業務アサイン
→思考の質、行動の質の向上
(4)目標達成に向けた業務タスクを見える化し、ホウレンソウの場として定期的に活用
→行動の質、結果の質の向上
(5)目標の達成をともに喜ぶとともに、今後の課題を共有し、次のステップに活かす
→結果の質、関係の質の向上
※(2)(3)は4半期/半期ごとに実施
※(4)は毎週/隔週で実施
上記はあくまで一例ですが、このように1on1の各フェーズに目的を持たせることで、話す内容も変わってきますし、マネジメントのツールとして効果を発揮してくるようになります。
3日坊主としないために、マネージャー研修の前に必要なこととは?
まずは会社/部署としてどのように1on1を運用していくのかルール化しましょう。その際に、前項のような1on1の目的と、実施する内容のフレームをきちんと準備することが大切です。マネージャーの力量に任せきりにせず、マネジメント経験が浅い方でも無理なく運用できるフォーマットやツールを準備して、1on1で実施することを明確にしてあげましょう。
1on1履歴が残るクラウドツールなども非常に便利ですが、システムはあくまでログデータを保管する箱にすぎません。そこにどんなデータを貯めていくのか、事前にしっかり検討しましょう。1on1のための研修というとコーチング研修を思い浮かべると思いますが、まずは1on1の目的や、フォーマットやツールの使い方をインプットすることからはじめましょう。コーチングスキルは重要ではありますが、数時間の研修で身につくような簡単なスキルではありません。1on1の運用が回りだした後、より質の高い面談を実施するためにマネージャー本人が希望してきた際には、コーチングの知識やスキルをインプットする機会を提供しましょう。
それでも定着しない場合は?
以前、ヤフーの本間さんの講演を聴講した際、質疑応答にて「ヤフーでも1on1をやらないマネージャーはいるのではないかと思いますが、どうされているんですか?」という質問がありました。これに対する本間さんの回答は「全員に必ずやらせています。徹底的に。1on1やらないマネージャーはマネージャーから降格させます。」ということでした。
上司との1on1が実施されているかどうか、社員に定期的なアンケートを取っており、1on1をしていないマネージャーがいた場合は、人事部が当該マネージャーにヒヤリング面談を行い、1on1をするように指示するそうです。それでも1on1を実施しない場合は、本当にマネージャーから降格させた事例もあったとか。これだけ会社は本気だということを伝えることが大事なことだそうです。これから1on1の導入を検討されている方、すでに導入しているがうまく運用できていない方のお役に立てば幸いです。