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採用広報のトレンドはどこからやってくる?

採用広報のトレンドはどこからやってくる?

ツールとは、使いこなしてなんぼ

その進化を支えてきたのが、現在はHRtechと呼ばれるようになった人事担当者向けのクラウド型情報管理サービスだろう。特にWantedlyをはじめとする企業自らが編集権限を持てる情報発信ツールが登場したことが、採用領域におけるマーケティングが進化した大きな要因と言えそうだ。ではツールが揃えば採用活動は安泰か?と言われれば、「No」と答える人事担当者が圧倒的多数ではないだろうか。
ツールとは、使いこなしてなんぼ。有効な使い方がわからなければ、アピールしたい情報が見つけられなければ、結局何も起こらない。
この連載では、広告・PR業界でブランディングを追求してきた現役人事が、昨今とこれからの採用マーケティングについて言いたい放題書き殴りながら、悩める人事・採用担当者のみなさまにブランディングのヒントをご提供できるよう頑張っていきたい。

昨今の採用広報ブームには疑問しか持てない

今回匿名で寄稿している私だが、まだWantedlyもnoteも無ければ、オウンドメディアという言葉も概念もほぼ知られていなかった(もしくは無かった)リーマンショック前後の時代に、最大手求人広告会社の営業担当ながら自ら広告原稿を書き続け、応募数爆発事例を連発していた俗に言う元リクである。
リクルート中退(決して卒業などできていない)後は、事業会社のブランド開発、大手広告代理店の営業、総合PR会社のPRコンサルタント・人事等を経て現在は事業会社の人事責任者を務めている。
この経歴を見ていただくと察しがつくと思うが、私は広告、PR、マーケティング、ブランディング畑のプロとして育った後に、人事へキャリアチェンジしたタイプである。
そのせいだと思うのだが、おそらく2015年頃から本格化した「採用広報」「採用PR」「採用ブランディング」ブームについては常に斜めから眺め続けてきた。
・広報とPRの違いを理解している人事は世の中に何人いる?
・ブランディングって何を指してる?
・PRって、まさか、#PR記事を書いてもらうことだと思ってない?
・この情報の出し方では…対顧客、対取引先、対株主・投資家視点で見たときにブランド毀損しているのでは…?
 そんなことを常日頃考えながら、「自己PR」という間違った言葉を生み出してしまった人事という領域を懐疑的に見てきたのが私(もはや変人)だ。

採用領域のマーケティングは本家に学ぶべし

広告業界では、マスメディア(4マスと言われるTV、新聞、雑誌、ラジオ)の時代が随分と長く続いた。
「テレビCMを放映すればモノが売れた時代」だ。2000年代に入りようやくインターネット広告が登場するのだが、2010年頃までは「ネットの情報は信憑性に欠ける」と当たり前のように言われていた。
デジタルネイティブ世代の皆さんからすると信じられないかもしれないが、当の私も2008年当時「ネット媒体だけだと信憑性と面接率が不安なので、誌面広告でそこをカバーしましょう」なんていう、今では考えられないような営業トークをしていた記憶がある。
2000年代の終わりにSNSが登場。ブログサービスと並んで市場は拡大していたが、当時はどちらかというとコンシューマー(企業ではなく一般消費者)向けのメディアに過ぎなかった印象。そのため、インターネット広告費は微々たるものだった。
その後、掲示板やクチコミサイトなどのCGM(Consumer Generated Media:一般ユーザーが参加してコンテンツができていくメディア)が登場し、様子が変わってくる。
テレビCMや新聞広告で見たサービス、店頭で見た商品をスマートフォンで検索、口コミサイトやSNS上の評判を確認してから購入する消費行動が生まれた。
買ってみて、本当に良ければブログやSNSでシェアされ、さらに売れる構造。このあたりの話は消費者行動モデル「AISAS」として、当時電通が発表しているので興味がある方はぜひ調べてみてほしい。
ちなみに、この時代のインターネットメディアの利用率向上にはスマートフォン、特にiPhoneの登場が大きく寄与している。
2010年代中盤以降では、「ネット検索はGoogle(ググる)から、Twitter・Instagramへ」と言われるようになった。
要するに、企業発信情報は信憑性に欠ける(≒皆、自社のこと良く言い過ぎる)から、SNSに投稿されている生活者の生の声を最も信頼するという、特に若者のインサイトからくる行動らしい。
同じような話として、企業やブランドが自己アピールする形で情報発信される「広告」ではなく、第三者であるメディアやインフルエンサーを介して伝える「PR(正確にはパブリシティという)」の方が情報の信憑性・拡散性が高く、このようなマルチステークホルダーを巻き込んだ統合型コミュニケーションが重要であるとする「戦略PR」ブームが巻き起こったのもこの頃。

2017年頃からはスマートフォン及び通信インフラの充実と相まって、「動画の時代」「動画元年」としてインターネット上の動画コンテンツを活用したマーケティング手法が急拡大する。
「もはや生活者はお茶の間のテレビではなく、手もとのスマートフォンで自分の趣味趣向に合った動画だけを視ている」と言うわけだ。
これにアドテクノロジー(ターゲティング/リターゲティング)が組み合わさると鬼に金棒である。生活者自身の視たい動画コンテンツだけが、自らのスマートフォン上で自然と再生されるのである。
スマートフォンに多くの可処分時間を奪われたマスメディア、特にテレビは随分と苦しくなってきた感がある。
そしてついに2019年、毎年電通が発表している「日本の広告費」において史上初、インターネット広告費がテレビ広告費を追い抜きNo.1シェアとなった。これについては様々な解釈があり、解説すると長くなるので今回は割愛するが、日本の広告業界にとっては一大事である。
余談だが、先日一時的にではあるが、インターネット広告最大手サイバーエージェントの時価総額が、電通のそれを追い越したというニュースもあった。
(一言だけ書いておくと、それでもテレビCMはとてつもなく強い。)
そして、コロナショック。生活者の在宅時間が拡大し、特に首都圏ではリモートワークやオンラインイベントが一般的になろうとする中、最適なマーケティング手法はさらに変化し続けている。このあたりの話は、また別の機会に。
比較的大雑把なまとめではあるが、ここまでは直近約20年間の広告・マーケティング、メディア業界の流れである。すでにお気づきの方ばかりだと思うが、この流れは採用領域におけるマーケティング活動に直結している。しかも、実は広告業界のトレンドからだいたい約半年から1年程度遅れる形で採用領域に取り入れられる傾向が顕著だ。
上記の広告業界からの視点を軸にしたこれまでの消費者トレンドを、ぜひ採用マーケティング領域のメディアやツール、手法に置き換えて考えてみてほしい。
そして裏を返せば、広告業界における最新トレンドを押さえておけば、次の採用マーケティングトレンドはある程度予測できると言うことでもある。

次回は、「採用ブランディングという違和感」について解説する。

Written by

Fourth graduate M
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