なぜキャリア自律は必要か?
向かう方向は正しいのか
ここで言う”環境の変化”とは何なのか。またそもそもキャリア自律をなぜ行わなければならないのか。これらを正確に把握しないでやみくもに行動することは、宝の地図を持たずに宝探しに行くようなものだ。
そのため以降では、「近年どのような環境変化が起こっているのか?」「キャリア自律をなぜ行わなくてはならないのか?」について述べ、最後に「会社として何をすべきか?」について記載したいと思う。
我々を取り巻く環境の変化
環境の変化は大きく二つあり、一つ目には、「終身雇用制度の限界」が挙げられる。2019年春、経団連の中西会長、トヨタ自動車の豊田会長といった経済界の重鎮が立て続けに終身雇用の制度疲弊について公の場で発言した。これは日本における終身雇用制度の限界を宣言したことと同義である。今までは終身雇用制度という安心安全な屋根の下、採用から引退までの間、会社主導によるキャリア形成が行われてきた。しかし、その安心安全な屋根がまさに今、なくなろうとしているのだ。
二つ目は、「人生100年時代」が挙げられる。様々なシーンで耳にすることの多いこの言葉、リンダ・グラットン教授が執筆した「LIFE SHIFT」から生まれたものであり、医療やテクノロジー等の発達に伴い、これから大多数の人が100歳以上の人生を経験するというものである。この著書の中では、単に生きる期間が延びるだけでなく、生きる内容(生き方)も大きく変わってくると言及している。今までは「教育」「仕事」「引退」の3ステージを皆が同じように歩んでいたが、今後は「エクスプローラ」「インディペンデント・プロデューサー」「ポートフォリオ・ワーカー」といったステージを個別に転々と生きる時代になると言っているのだ。つまり、決まったステージを歩む時代から、自分の創ったステージを歩む時代に変わったと言っているのだ。
これら環境の変化により、今までは他人に決めてもらったり、お決まりパターンで進んでいたものが、キャリア自律せざるを得ない状況へと、ジワリジワリと変容してきているのだ。
キャリア自律をなぜ行うか
キャリア自律の目的とは、一体何なのだろうか。環境の変化に適応することがそもそもの目的なのだろうか。これを考える前に、まず「キャリアとは何か」について記載したい。キャリアの定義は様々なところでなされており、その解釈は区々である。
例えば、厚生労働省では、「キャリアとは、一般に経歴/経験/発展、さらには、関連した職務の連鎖等と表現され、時間的持続性ないしは継続性を持った概念。キャリアを積んだ結果として、職業能力が蓄積されていく。」と定義づけられている。文部科学省では、「人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見出していく連なりや積み重ね。」とされている。また日本のキャリア研究の第一人者でもある金井壽宏氏は「成人になってフルタイムで働き始めて以降、生活ないし人生(Life)全体を基盤にして繰り広げられる長期的な(通常は何十年にも及ぶ)仕事生活における具体的な職務・職種・職能での諸経験の連続と、(大きな)節目での選択が生み出していく回顧的意味づけ(とりわけ、一見すると連続性が低い経験と経験の間の意味づけや結合)と、将来構想・展望のパターン。」と定義している。
これらはあくまで一例に過ぎないが、見てわかるようにキャリアの定義は幅広い。しかし本質的な部分はとりわけ共通して「仕事に限らず人生全般であること」「過去・現在・未来全てを指すこと」などが挙げられている。
それでは改めて、キャリア自律の目的とは、一体何なのだろうか。私は、「人生を謳歌するため」だと考える。
先ほど記載したように、キャリアの本質が「仕事に限らず人生全般であること」「過去・現在・未来全てを指すこと」であるならば、それはすなわち生まれてから死ぬまでの人生そのものなのである。「私はなぜ生きているのか?」を突き詰めて考え、自分の価値観や理想を見つけ出し、少しでもそこに近づくための戦略を練る、それこそがキャリア自律の最たる目的なのだ。
会社として何をすべきか
それでは会社は社員のキャリア自律を支援するために何をすべきだろうか。私は大きく二つあると考える。
一つは、社員一人ひとりにとってのあるべき姿やありたい状態を見つけ出す支援を行うことだ。わが社行っている主な取り組みは、キャリアデザイン研修や社内キャリアコンサルティングなどが挙げられる。
もう一つは、その人にとってのあるべき姿やありたい状態を実現するための外部環境を創ることだ。わが社で行っている主な取り組みは、希望キャリアの見える化、Job Board/FA制度、1on1ミーティングなどが挙げられる。
これらについて、会社としてしっかりと準備できたならば、会社と個人が対等な関係で付き合い、共に高め合い、そして高いパフォーマンスを上げることができるだろう。