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効果的な1on1定着を妨げるボトルネック

効果的な1on1定着を妨げるボトルネック

1on1の本質とは

一方で、1on1という言葉自体が独り歩きしている状況も散見されます。導入ノウハウや上司側のスキルに意識が向いてしまい、その本質を捉えずに導入してしまうと、当然、期待効果が得られないでしょう。
今回は、改めて1on1の本質などの原理原則に触れながら、人事部をはじめ1on1導入を検討・推進される立場の方に向けて、それらを妨げるボトルネックをご紹介させていただきます。

各社が1on1を導入する目的

社会環境変化の早さ、不透明さ、複雑・不確実さが増しているVUCA時代において、社員一人ひとりの強み、知見、アイディアを最大に発揮させることが重要になってきています。指示・命令を軸とする旧態依然とした上司の部下への関わりのみで、それらの実現が難しいことは明らかです。
こうした時代背景を踏まえ、上司の対話スタイルそのものの転換を図りながら、風土改革につなげていきたい企業に対して、当社がご支援させていただくケースが多くなっています。
 
ここでポイントとなるのは、自社における導入目的を明確に言語化することです。
トレンドになっているから1on1を導入すれば「何か」が良くなるはず、という事ではなく、経営課題解決のシナリオの中で、1on1を位置づけて関係者全員で共通認識を持つことがスタート地点です。

1on1ミーティングとは

特定の正解があるわけではありませんが、1on1に関するお話しをさせていただくにあたり、まずは1on1を定義づけしておきたいと思います。
1on1とは、上司と部下が1対1で定期的に行う対話。
通常は、コーチング、ティーチング、フィードバックなどを効果的に組み合わせて、部下の成長支援を目的として実施します。
 
この中でもっとも重要なポイントは、「部下の成長支援を目的」としているという点です。VUCA時代における企業成長を支える社員を育成が主な目的となっており、上司が部下の状況を見極めながら、それぞれの部下に対して適切な育成支援している状態を目指すわけです。
従って、上司が自分の情報収集のために行う日常の面談とは根本的に目的が異なっていることはお分かりいただけるかと思います。

1on1定着を阻むボトルネック

こうして、今の時代背景を踏まえて必要性が高まっている1on1ですが、なかなか導入がうまく進まないことも少なくありません。しっかりと目的意識を持って導入したとしても、形骸化してしまったり、仮に定着したとしても導入当初の組織の理想像と意図せず乖離した状況になってしまいます。
これらの結果に対しては大小さまざまな要因が考えられますが、代表的なポイントに絞って大きく3点紹介させていただきます。特に今回は、組織において相対的に影響力が大きい上司にフォーカスしたいと思います。

要因1 1on1実施の重要性に対する理解不足
まず、1on1導入においてその重要性が理解されていないことによって、どのような状態になるか見ていきましょう。そのような場合、主に次のような現場の声があがってきます。
「忙しいのに、余計な仕事を増やさないでほしい」
「いつも話しているから必要ない」

いかがでしょうか?いずれかは耳にされたことがあるかもしれません。
前者については、意義を理解していないので、「余計なもの」と映るのでしょう。この場合、当然のことながら、どんなに1on1のスキルを磨いていただいたとしても、意義が理解されていなければ、意味がないということになります。
こうした時間的なストレスを解消していただくためには、1on1に取り組むすべての方が、その意義を自分事として明確に理解することが非常に重要なポイントになります。
 
後者についても、良く聞かれるコメントです。このような反応があった場合には、「話している」内容や目的を注視してみるとよいかもしれません。この場合、往々にして比較的短期の業務進捗や課題処理が中心となっていることが多くなっているのではないでしょうか。そのようなテーマにおける対話では、上司からの指示・命令・アドバイスがコミュニケーションの大半を占めているはずです。
一点補足すると、それらが不要なコミュニケーションだと言っているのではなく、状況に応じて必要な関わりであることは事実です。しかし、そのようなコミュニケーションに終始することによる中長期的な組織的なリスクを考えなければいけない、ということです。少なくとも先に挙げたVUCA時代に企業を支える自律型人材の育成は難しくなるでしょう。

本来は、部下が主体性を持ちながら、将来の夢や会社でのキャリアパス、組織課題のような未来に軸足を置いた対話が好ましいでしょう。こうした組織や人材の未来を創る対話は、強く意識しなければ、なかなか実践が難しいのが上司の皆さんの本音だと思います。
こうした中で、1on1はまさにこの領域に対して定期的に時間を投資するための仕組として非常に有効な取組だといえます。
短視眼的になることなく、1on1という機会を通じて、部下成長のために一定の時間を投資することで得られる結果を中長期の視野に立ち腹落ちしていただく事が重要です。上司の皆さんの組織における役割期待をしっかり認識したうえで、日ごろから部下から信頼されるに足る存在として、リーダーシップを発揮できるかという点に立ち返ってもらうとよいかもしれません。

要因2 「心理的安全性」に対する誤解
皆さんも周知の通り、組織づくりに触れるうえでキーワードとして挙げられる「心理的安全性」という概念があります。今回のテーマである1on1導入の文脈においても例外なく、重要なポイントとして取り扱われている概念です。しかし、表面的な字面から受ける印象が先行してしまい、都合のいい解釈や誤解が拡散しているようにも見受けられます。
1on1の場で誤った「心理的安全性」を担保してしまうと、どうなってしまうのでしょうか。

結論から申し上げると、いわゆる「仲のイイ組織」「ヌルい組織」が出来上がってしまいます。この場合、「心理的安全性」を『仲良し、和気あいあい』『居心地がいい』環境といったニュアンスで認識されていることが多いように感じます。
本来の「心理的安全性」とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方・・・つまり、「無知、無能、ネガティブ、或いは失敗したら大変だと思われる挑戦をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味しています。
チャレンジし、成果を求める「目的を持ったチーム」と、平穏無事を第一とする家族の心理的安全は全く別物、ということです。本質的に重要なのは、物事への妥協点を極限まで上げ、挑戦と寛容が共存する環境を目指す、という事ではないでしょうか。
このキーワードを使って社内に発信される際は、ぜひ留意していただければと思います。

要因3 1on1導入に対する短視眼的な成果判断
1on1は導入開始から一定の効果が出るまで、最低1年程度は必要です。数カ月という短期間のスパンでとらえるのではなく、1~3年程度の中長期的なスパンで効果を測定していくことになります。ある意味、当たり前の話なのですが、1on1を1か月間だけやって、いきなり効果が出るかというとそんなことはありません。前述の心理的安全性を確保するためにも、年単位の長い期間で考えていく必要があります。
この視点がなければ、「数か月で組織風土を変える」という非現実的な目標を安易に設定しかねません。当然それを実現することは、相当ハードルが高く、達成できなければ「1on1は結局効果的ではない」という烙印を押され、お蔵入りするという結末になってしまいます。つまり、1回始めたら、ある程度の期間続けて、初めて結果が出るものというものなので、導入に成功している企業は、3か年計画でプランを作られたり、いろんな1on1が回るための仕組みの計画を立てられたりしています。
1週間で何時間無駄になったとか、1ヶ月間で上司が労力を使わなければならないかという近視眼的な目線ではなく、中長期で見ていくことが重要になります。
だからこそ、現場の上司へ丸投げせず、経営陣の強いコミットのもとで成立する取組です。

1on1は万能薬ではない

ここまで、1on1を浸透させる際のボトルネックに触れながら、その意義についても触れてきました。上司・部下の信頼関係が醸成されて離職が減り、さらには社員の主体性が発揮され組織風土まで改善される、となると大変耳障りも良く、どこか魔法の施策のように感じてしまいます。確かに、嘘ではありませんが、当然のことながら1on1を導入すればすべて自動的に実現されるという事ではありません。
全社における上司の皆さんの対話スタイルの転換を図るとなると、一大プロジェクトです。論理的に納得してもらえるものの、感情的な反発がでてくることも少なくないはずです。そうした声に耳を傾けながら、会社の未来を見据え、導入目的に資する結果を得るまで、粘り強く現場と向きあい続ける覚悟が重要だと思います。

Written by

RyosukeDeguchi
CANTERA ACADEMY4期卒業。 大学卒業後、セールスプロモーション企業→IT広告代理店を経て、現職。 IT広告代理店勤務時にキャリア形成と向き合う中でコーチングを学んだ後、個人でクライアントを獲得し、副業としてコーチ業を開始。 現在は、ビジネスコーチ株式会社にて、規模・業種に問わず幅広い企業での人材開発に携わる。
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