山登り型キャリアの呪縛
キャリアの目標がない自分はダメ?
明確な目標を掲げられていない自分はダメなんじゃないか?そんな不安感でしょうか。目標を掲げてキャリアを歩んでいく、これができているなら素晴らしいわけですが、できていない自分はダメと本人が思ってしまうほどに、このいわゆる「山登り型キャリア」の呪縛が強いことを感じます。
山登り型キャリアはキャリアを山登りに例えて、山頂という明確な目標に向かって歩んでいくというもの。
キャリアの相談に来ているという属性から考えて、明確に目標を掲げてキャリアを歩めていない自分を責めてしまう相談が多くなる傾向があるかもしれません。しかし、感覚ではありますが、一般的にも「山登り型キャリア」を前提としている方が多いのではないでしょうか。
採用時の新卒や中途の面接でも、「5〜10年後のキャリアプランを教えて下さい」という質問を投げかける面接官はいらっしゃると思います。この質問が悪いというわけではなく、そのぐらい、「山登り型キャリア」を前提としていることを、今お読みいただいている人事のみなさんと理解を合わせておきたいと思った次第です。
今回タイトルにしている「山登り型キャリアの呪縛」はやや大袈裟な表現かもしれませんが、山登り型キャリアが若手のビジネスパーソンを悩ませている例が多いことを実感値として人事ののみなさんにお伝えしたく筆を執りました。特に高校や大学で運動系や文化系どちらの場合でも地区大会や全国大会を目指すような競技をやっていた人は、目標がないことに焦りを感じる傾向があるように見えます。
キャリアの考えの幅を広げてほしい
最近VUCA(Volatility=不安定、Uncertainty=不確実、Complexity=複雑、Ambiguity=曖昧)という表現を見聞きします。先の見えない時代でもあり、かつ、いわゆる戦後の日本企業の特徴であった終身雇用制度が変化しているからこそ、キャリアにおける目標設定が難しくなっていると思います。
一方で、クランボルツの「計画された偶発性=プランド・ハプンスタンス・セオリー」という理論。転職活動の相談に来る方において、知らない方がほとんどです。つまり、キャリアの考え方として、山登り型だけではなく、計画された偶発性についても知っているだけで、キャリアの考え方の幅が広がると思います。結果として、山登り型キャリアの呪縛から逃れられる、もしくは、目標が見つかっていない自分を責めないようになるように思います。
ご存知の方も多い、このクランボルツの調査・研究結果ですが、結論を言うと、キャリア形成のきっかけは80%が「偶然」である、というもの。この研究結果は、VUCAの時代だからこそ、よりフィット感を覚えるわけですが、一方で、クランボルツの理論の中で非常に大事だと思うのが、良い偶然を呼び寄せる行動。これこそが若手ビジネスパーソンに知ってほしい内容だと思います。山口周さんが「仕事選びのアートとサイエンス」の中で簡潔にまとめているものを引用させていただくと下記のような行動です。
1.好奇心:自分の専門分野だけではなく、いろいろな分野に視野を広げ、関心を持つことでキャリアの機会が増える
2.粘り強さ:最初はうまくいかなくても粘り強く続けることで、偶然の出来事、出会いが起こり、新たな展開の可能性が増える
3.柔軟性:状況は常に変化する。一度決めたことでも状況に応じて柔軟に対応することでチャンスを掴むことができる
4.楽観性:意に染まない異動や逆境なども、自分が成長する機会になるかもしれないとポジティブに捉えることでキャリアを広げられる
5.リスクテーク:未知なことへのチャレンジには、失敗やうまくいかないことが起きるのは当たり前。積極的にリスクをとることでチャンスを得られる
キャリアにおける目標はすぐには見つからないかもしれません。そもそも、そんな簡単に見つからないものだと思います。そのような中でも、クランボルツが提示している良い偶然を呼び込むスタンスを参考に真摯に生きていく。そして、ご自身の目標が見つかれば最高(見つかった後に行動することが大事です!)。一方で見つからないかもしれない。しかし、それはそれで良いのではないかと。見つけようとする姿勢を持ち続けることが大事なのではないかと個人的には思います。