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さくらインターネット株式会社 代表取締役社長の田中邦裕氏と人事部マネージャーの矢部真理子氏に聞く「コロナ危機における人事課題」の実情【第3回目】(前半)

さくらインターネット株式会社 代表取締役社長の田中邦裕氏と人事部マネージャーの矢部真理子氏に聞く「コロナ危機における人事課題」の実情【第3回目】(前半)

登壇者プロフィール

田中 邦裕 様
さくらインターネット株式会社 代表取締役社長

国立舞鶴工業高等専門学校在学中の1996年にさくらインターネットを学生起業。当時は珍しかった、インターネットサーバーの事業を開始。2005年に東証マザーズ上場、2015年に東証一部上場。元々はエンジニアでありながらも、自らの起業経験等を活かし、スタートアップ企業のメンターや学生エンジニアの指導等にあたる。

矢部 真理子 様
さくらインターネット株式会社 管理本部 人事部マネージャー

メーカーでの営業、社長秘書を経て、前職では約7年間、様々な業態・職種の新卒/中途採用の企画~運用業務を中心にアセスメント・教育にも携わる。2012年より現職にて、人・組織で事業に貢献するための人事業務全般に従事。

堀尾 司 様
株式会社All Personal 代表取締役CEO

2017年6月(株)AllDeal創業。2018年11月、(株)All Personalに社名変更。現在、HRプロダクト開発をメイン事業としながら(株)ベクトルグループ、(株) PR TIMES、SMBCコンサルティング(株)等の人事顧問を務める。過去約200社のスタートアップや成長企業の支援実績。CHRO育成アカデミーCANTERA責任者。
Twitter: @horio_jp

清水 邑
株式会社ZENKIGEN コミュニティプロデューサー

2018年株式会社ZENKIGEN入社。HRTech領域のカンファレンス「NEXT HR カンファレンス」を立ち上げ。

性善説がリモートワークを支える。

コロナ危機に際し、経営者としてどのような意志決定を大切にされてきましたか。

田中:
それぞれの会社が大切にしている価値観を改めて見直すことが非常に重要ではないかと思います。当社の人事には「社員を信じる」「性善説でやる」という基本方針があります。懲罰という制度もありますが、大多数の社員は問題なく行動してくれると信じていることが背景にあります。

果たして皆さんの周囲の人は不正をされているでしょうか。世の中のほとんどの人は、周囲のことを考えながら正しく生きています。100人中100人が不正をすれば会社は潰れます。ですから性善説に立つのは理にかなっていると思います。もちろん、何かが起きた場合の最終責任は私がとることになります。そうしたほんの少しの覚悟さえあれば、意外と性善説は回っていく。それが判断のベースにあります。

また弊社は、ES(エンプロイー・サクセス)とCS(カスタマー・サクセス)を重視しています。ですから売上と利益よりも、お客様に迷惑をかけず、かつ社員の安全が守られるという当たり前のことを最優先しました。

現在は全社で在宅勤務を命じられ、コロナが終息した後も、リモートワークを中心とした働き方を検討されているとお聞きします。そうした経営判断をされた背景を教えていただけますか。

田中:
インターネットとITがあれば、必要のないことはたくさんあると感じます。つまり理由もないのにやっていることは捨てていこうと考えています。

三次産業やサービス業の生産設備は、ほとんど人とコンピュータです。特に当社の場合は、データセンターは別にして、その場所でなくても仕事はできるわけです。今はZoomもあるし、4G、5Gといった通信環境も生まれました。つまり、会社に行く必要はなくなったということです。もちろん工場のような生産設備を作り、集まらなければいけない仕事もあるでしょう。しかしコミュニケーションのギャップを乗り越えることができれば、集まる必要はありません。

ITとインターネットが前提の社会において、「会社って行かなくてもいいんじゃないの?」というのがここ2~3年の概念です。

弊社では新型コロナウイルスに感染したら全面的に会社でサポートしますし、お金の心配はしなくていいと話してきました。そこで現在、全社に在宅勤務命令を出し、出勤をお願いする社員には、申し訳ないので緊急出社手当を支給しています。これは危険手当に近いと思っています。

リモートワークで伝わらない? オンラインでのコミュニケーション

リモートワークをしていく上で社員とのコミュニケーションで気をつけていること、また変化したことはありますか。

田中:
管理職の皆さんの中には、伝わらないストレスを溜めていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。ただ、それらの大半はオンラインだからではなく、以前からの問題であると思います。

つまり、これまでコミュニケーション力といった“ふわっとしたもの”に頼っていた側面が、リモートワークになって顕在化したと言えます。本来、上司は部下に対して、形式化して伝える必要があります。上司の負担は増えますが、何回もやりとりする必要がないのでトータルでコストは下がっているはずです。
ただ雑談のない寂しさはあるので、各部門にZOOMベースで雑談をするようにはお願いしています。ビデオ会議でも、「最近どう?」みたいな雑談タイムは設けるようにしていますね。

おそらく今、社員の1/3はコロナが終息した後も、リモート前提でいく覚悟を決めたと思います。一方で半分以上は元に戻れると思っているのではないでしょうか。だとすると、今は我慢の期間になってしまいます。なので、今は、在宅勤務に慣れ、コロナが終息した後は、これをベースにしたリモートワーク前提の働き方をしていくことがとても重要だと思います。

また、注意しなければいけないのは、在宅勤務で働けない会社も多く、出社しなければいけない社員もいます。そこで社員には、こうした状況下でも出ている社員がいることに心を寄せなければいけないというメッセージを発信しています。

Wi-Fi環境が整わないなど、ハード面でリモートワークがうまくいかないとの悩みも耳にします。どのような取り組みをされていらっしゃいますか。

田中:
制度面に関してはまだ拡充が必要だと感じていますが、全社員に通信手当を毎月3千円、環境整備のために1万円を支給いたしました。また、通勤手当と住宅補助を合算で毎月2万5千円支給をしていますので、通勤がない場合はその分を住宅手当にあてられます。
 
同時に風土面では、社員が自発的にお互いに情報共有することを大切にしています。
当社はビジネスチャットアプリの「Slack」を活用しているのですが、その一つに人事が作った「在宅ワーク知恵袋」というチャンネルがあります。「光ファイバーはどこがいいか? 」などといった相談を社員同士でフォローしています。やりとりはSlack上ですべてオープンになるので、「そういう相談なら、このチャンネルがいいよ」とアドバイスし合っています。

情報は伝達するのも重要ですが、オープンにし、共有することも重要です。メールは情報伝達ツールでしかないため、クラウドやSlackのオープンチャンネルを利用して、蓄積していくようにしています。

こうした情報共有を継続するためには、お互いに声を掛け合うことだと思います。Zoom飲み会もそうですが、楽しいと思った人が次々に伝えていけばよいのです。人が楽しいと思うことの伝播速度は結構速いじゃないですか。その1人目に人事がなればよいのだと思います。
昔なら場をセッティングする必要がありましたが、Zoomは無料で40分まで使えますからね。雑談しましょうとチャンネルを開いておけばいい。これは今すぐできます。

この状況が長引くことを考え、パルスサーベイを実施されているそうですね。

田中:
「最近どうですか」と様子を尋ねるアンケートのようなものですが、1回だとあまり意味がないので今後は週に1回実施しています。続けていると何かあったときにどういう変化があるのか、社員の情緒の動き方もわかります。
連日の報道などによってストレスを溜めている社員、漠然とした不安を抱えている社員もいると思うんです。社員がどう思っているのかを連続的に計測するのが重要だと思い導入しました。

心を寄せる。リモートワーク時代の新入社員の迎え方

在宅勤務の開始は新卒の入社や研修の時期と重なりましたが、こういった変化への対応はいかがでしたか。

田中:
入社式は、出社するのは10名以下と基準を設け、新入社員が7名に私と人事とカメラマンの3名を加え、お互いが距離をとって開催しました。
 
役員挨拶は全部Zoomでやりました。加えて一般社員も参加できますよと声をかけたら200人近く入ってきたんです。新入社員の挨拶にいろいろコメントがついて、例年以上に盛り上がりました。すごくよかったですね。新人歓迎会もZoomのブレイクアウト機能を使って実施しました。新入社員にPayPayで奢ってあげる人もいましたね。
研修は最初の数日だけ出社し、オンラインの方法を伝え、あとは在宅勤務です。

新卒の方に対して、どのように社員の雰囲気や、文化、風土の醸成をしていくかに悩まれている人事の方を非常に多く見受けますが、そのあたりはいかがでしょうか。

田中:
一つには、心を寄せるという事だと思いますね。「自信がありません」と言う新卒に人事がコメントしたり、あるいは経営者から人事に対しても「大丈夫だから」とメッセージを送ったり。Slack上にある新卒の入っているチャンネルは、大変にぎわっていますよ。
結局、こうした人に寄り添う心がすべてではないでしょうか。そもそもこれだけ社会が変化する中で、今の文化が正しいのかどうかわかりません。いわば、今はオンライン・ベースで新しい文化を作るチャンスだと考えてもよいと思います。

人間は変化に強い人と弱い人がいます。変化は好きだけど得意じゃない人もいますし、変化は望んでないが事務的には乗り越えられる人もいますので、そうした観点から社員の属性を把握してあげた方がよいと思います。変化が得意でない社員に寄り添えるかどうかは、経営者としても人事としても大事です。その上で、変化が得意な人を中心に動かしつつ、いかにフォローしていくかが本質ではないでしょうか。

次回の記事後半では、フリートークの様子を掲載する。

本記事は株式会社ZENKIGEN主催の「コロナ危機における人事課題の相談所」ライブ配信
さくらインターネット株式会社 代表取締役社長の田中邦裕氏と人事部マネージャーの矢部真理子氏に聞く「コロナ危機における人事課題」の実情【第3回目】(前半)
https://harutaka.jp/column/さくらインターネット株式会社-代表取締役社長の
からの転載となっております。

Written by

horio
CANTERA責任者 兼 講師 (株)All Personal代表取締役CEO 1973年北海道生まれ。1994年(株)リクルート入社。2004年ソフトバンクBB(株)入社。ソフトバンク通信事業3社を兼任し、営業・技術統括の組織人事責任者に従事。2012年グリー(株)入社。国内の人事戦略、人事制度、福利厚生、人材開発の責任者を歴任。2014年より東京東信用金庫に入庫し地域活性化に従事。2017年6月(株)AllDeal創業。2018年11月、(株)All Personalに社名変更。
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