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ジョブ型人事制度 4つのメリットと2つの留意点

ジョブ型人事制度 4つのメリットと2つの留意点

ジョブ型人事制度とは?

簡潔にいえば、会社に必要なポジション(職務)とポジションの価値を明確にし、ポジションに合う人を配置、採用、時には合うように成長支援し、ポジションの価値に応じて報酬を支払うことで事業・経営戦略の実現に人員的側面・人件費的側面から貢献する趣旨の制度です。

よく対比としてメンバーシップ型人事制度(いわゆる職能資格制度)が取り上げられます。

メンバーシップ型は簡潔にいえば、職務に必要な能力をその人がどれだけ保有しているかを基準とし、能力の保有に対して報酬を支払うという制度です(近年は制度の修正が入り、果たす役割を基準とする制度とのハイブリッドが増えて来ています。例えば、成果評価・職務給など)。

能力保有を基準としているため、担うポジション自体がどうであれ、一定額の報酬が支払われます。また、保有した能力は失われることなく経験(勤続)に応じて成長するため、実質年功的な昇給が発生します。

これにより、人材を広くローテーションしてジェネラリストとして育成したり、年功的な昇給運用に伴って終身雇用が行いやすくなるという特性を持っています。

メンバーシップ型はあくまでも人の能力やその成長を重視しており、ジョブ型は仕事内容と成果を重視するという違いがあります。

※ジョブ型・メンバーシップ型のイメージ

ジョブ型人事制度の要点(設計の流れ)

では、ここからはジョブ型人事制度の要点(設計の流れ)について紹介していきます。

1.まずは、その会社に必要な仕事=ポジションを明確化します。

日本企業であればポジションは、職種×役職(階層)で整理するとイメージしやすいと思います。

2.そのうえで、ポジションの内容を定義します。

内容が記載されたものを、ジョブディスクリプション(ジョブプロファイル・職務定義書など)と呼びます。ジョブディスクリプションの内容は各社によって違いますが、主にポジションの目的、果たすべき責任(ミッション)、必要な経験、必要なスキルが含まれています。

3.次にジョブディスクリプションの内容に基づいて、ジョブの大きさを図り、序列化します。

※ジョブディスクリプションを作成する前に、現有情報で仮の職務評価をし、大枠の認識合わせをするケースもあります(しっかりJDを作って職務評価もしていざ役員に見せたらひっくり返るということを防ぐため)。

対象社員が多いジョブレベルの測り方は、職務評価ツールを使うケースが多いですが、内部で基準を用いて測ることも可能です。

※本稿では序列化されたジョブの大きさをジョブレベルと呼びます。

4.そして、ジョブの大きさに基づくジョブレベル、もしくはそもそもポジション自体に報酬を設定し、経営・事業貢献との連動性を担保します。

さらに評価についても設計しますが、ジョブディスクリプションに応じた成果への評価、必要スキル/経験に対する現状測定と開発目標への評価(行動)が多いです。

※ジョブ型の検討におけるポジションのイメージ

※ジョブディスクリプションの例

ジョブ型人事制度のメリット

1.ポジションにマッチした人材をアサインしやすい(ポジションへの最適配置)

ジョブディスクリプションにポジションの内容が可視化されているため、応じた人材を配置することでマッチの制度が高まります。

ポジション情報だけでなく、ジョブディスクリプションに定められたスキル・経験と人に関する情報がリンク・可視化されていれば、よりマッチ度が高まります。

2.経営・事業への貢献と報酬がリンクしやすい

・現在のポジションに対して求められる仕事が果たせているか評価

・仕事が果たせていない場合、対象者に見合ったポジションへ変更

・変更後はそのポジションに見合った報酬が支払われる(下がることもある)

これが職能資格制(メンバーシップ制)にくらべて、貢献と報酬がリンクするといわれる仕組みです。

※評価によって大きく報酬を下げること自体は違法ではありませんが、社員の生活維持や他社員への心理的な安心感、労働紛争のリスク観点などから、移行措置を設けるケースが多いです(制裁の減給ではないため)。

3.年齢や勤続に左右されない処遇が可能

ポジション定義とジョブレベルが定められている為、ポジション別・ジョブレベル別の市場報酬水準との比較が可能となり、それに応じた報酬設定が可能となります。

そのポジションにアサインされた場合、勤続0年の新卒であろうが勤続20年のベテランであろうがポジションに見合った報酬が払われるので、採用競争力が担保できます。

4.専門性の強化に向いている

ジョブディスクリプションにて対象ポジションの目的・ミッション・必要な経験/スキルが定められるので、評価に組み込むことで現状の経験/スキルと上位ポジションとの差が分かるようになります。

ジョブディスクリプションは職種ごとに、下位から上位へ段階的に整理されるので、上位を目指して成長し、上位ポジションを担い、また次の上位ポジションを目指すというサイクルにより、その職種の専門性が高まっていくという考え方です。

その上で、必要な経験を得るためのポジションの道筋としてキャリアジャーニーを設計するケースもあります。

ジョブ型人事制度のデメリット

1.上位ポジションへのアサインが硬直化しやすい

ジョブ型は上位ポジションが埋まっている場合、新たなポジションができない限りに上がることはできないと言えます。

あくまでもポジションやジョブレベルに応じた報酬が支払われるという考え方なので、ポジションのアサインがうまくいっていれば、一定レベルで報酬上昇が止まる可能性があります。

職能資格制度であれば、上位ポジションを担っていなくても、職務能力に応じたの報酬が支払われるため、報酬の上昇も可能です。

2.ジョブディスクリプション・ジョブレベルの管理が煩雑

ジョブディスクリプションには、そのポジションでの目的・職責などを定義していますが、厳密に運用するほど、ポジションの目的や内容が変わるたびにジョブディスクリプションの書き換え、場合によっては職務評価とレベル(等級の序列)の修正が必要になります。(最低でもポジション自体の追加・削除レベルはジョブディスクリプションの追加・削除が必要です。)

既存事業の内容変更が2・3か月単位で起こる、半年ごとに新規事業の立ち上げが起こるといったように変化が激しい環境では、相当の運用工数が見込まれます。

設計・運用上の留意点

留意点は様々ありますが、今回は一部をご紹介します。

あくまでも個人的な観点であり、会社の事業環境や重視したい考え方によっては当てはまらないこともありますので、ご容赦ください。

1.ポジション変更(下げる場合)したくても、給与が大きく下がってしまうので変更しづらい。

任せたポジションに対して成果が見合わない場合、周囲のモチベーション(特に優秀人材)や抜擢したい人材の機会損失、会社業績に影響を与えることになります。

そのため、ポジション変更を検討することになりますが、がくんと報酬を下げてしまうと、本人のモチベーション低下や先述したリスクが懸念され、なかなか変更できず、いつのまにか硬直化しやすいところです。

対応のひとつとして、報酬レンジを広く設定し、等級間で一部を重複させるという方法があります。

これにより、下位のポジションに変更後、段階的に報酬を下げていくことができ、その間に対象者の能力開発を促しつつ、一定の報酬額に落ち着くということが可能です。

※もちろん、反対にポジションと報酬が上がる人がいるので、単純に人件費増にならないように、昇給・降給幅と原資コントロールの設計が必要です。

2.ジョブディスクリプションの管理ルールを定め、運用担当を明確に、定常業務として組み込んでおく

先述の通り、正直厳密にジョブディスクリプションを管理(変更・修正)することはかなり大変と思います。

なので、どのレベルであれば修正するか、誰の意見をどのように確認・反映するか、だれが作業をして、いつ・どの機関で決定するか。ということを予め定め業務化しておいた方がよいです。

例えば、ジョブ型を導入している大手メーカーでは。ガイドラインを定め、運用担当を明確にきめ、年・半期の一度の組織改編があれば、そのタイミングで見直しを行っています。

ミッショングレード制という考え方

先述した通り、ジョブ型人事制度は貢献に見合った報酬、専門性の強化に適した制度ですが、組織や業務が変わりやすい会社では、変更を含む運用が煩雑になり、形骸化しやすいので注意が必要です。

ジョブ型程、厳密に仕事を定めないものの、近い制度としてミッショングレード制(役割等級制)という方法もあります。

バブル崩壊後の先行的な成果主義導入での失敗が調整された結果、導入が増えてきた制度で、リクルートグループ各社やソフトバンク社でも導入されています。

本稿では、ミッショングレード制と役割等級制は本稿では広義として一括りで捉えています。

ミッショングレード制では、実際はポジションごとに求められるミッションを、一定範囲でグルーピング(等級化)し、ある程度汎用化した定義を定め、等級に応じた報酬レンジを定めるというイメージです。

ジョブディスクリプションを定めないことが多いので、相対的に運用工数がかかりすぎず、ある程度経営・事業に必要なミッションに応じた報酬設定も可能です。

まとめ

ここまで紹介してきたことは、あくまでも様々な人事制度の形の一つです。
人事制度の選択は、現状制度の修正観点が出発点となり、最後まで修正を前提とした理想形を追い求めるというケースも少なくないと感じます。

もちろん人事制度の修正・改定自体は社員にとってよい影響があると思いますが、本来は、将来の事業環境に応じた組織・人材のあるべき姿に向けて、人事制度というツールをどのように使うかを考えた方がよいのではと個人的には思っています。

人事制度は振り子のような性質があると、CANTERA ACADEMY(CHRO養成講座)の中でも取り上げられたことがありました。

一定の基準をもって、従業員の考え方や行動を促そうとするとどうしてもハマらない部分が発生し、個別対応で間に合わない場合、制度を見直すことになる。そして、時間と共に事業環境や組織環境が変わり、新たな課題が発生します。

振り子を振れば反対側が発生し、振り幅が大きければ響く度合いも高い分、反対側も大きくなります。

どのような制度であっても、環境変化に応じて課題が発生し、それらをいかに進化させていくかが人事の役割の一つではないかと思います。

上記をはじめとする、各制度の課題についても今後の記事にて触れていければと思います。

CANTERA最新のイベントはこちらです、是非ご覧ください!

Written by

Akiyoshi_Ueda
CANTERA ACADEMY1期卒業。 大学卒業後、採用・組織コンサルティング会社にて、メーカー・サービス業・建設業・運輸業などの企業に対して新卒採用戦略立案・実行、社員向け教育研修を支援。その後、大手SIerにて人事制度企画、ソーシャルゲームパブリッシャーにて人事責任者として人事制度、労務、採用など、人事関連の各種プロジェクトマネジメントを実施。 現在は、総合系コンサルティングファームの組織人事コンサルタントとして、新会社設立・人事制度導入・人事機能設計・労務マネジメント施策などの制度・労務領域を中心にプロジェクトを推進。
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