CANTERA NOTE

採用担当は会場全体を見渡すセッターであれ

採用担当は会場全体を見渡すセッターであれ

全てやることが正義ではない

前述のような、採用担当の目的を見失った状態の方がやってしまいがちなのが「全て自分でやらなきゃ症候群」です。採用戦略の設計、採用ブランドのコンセプト作り、情報発信・母集団形成、説明会等のファーストコンタクト、候補者の見極め、候補者との定期連絡、候補者の志望度上げ、志望度確認、クロージング…。全てを自分でやらなければならないような気がしてきます。それが「全て自分でやらなきゃ症候群」です。これは採用担当に限らず、様々な職種の新任マネージャーにも時折見られる症状です。では、採用担当の場合、なぜこの現象が起きやすいのでしょうか。原因はいくつかあります。

ケース1:自分でやった方が精神的に楽?

まずは新卒の初期配属で採用担当になった方や、転職後職種を変えて採用担当になった方に多い「自分でやった方が精神的に楽」というタイプ。これは、採用担当という仕事の特殊性に関係します。モノやサービスを販売する事業部で、営業やマーケティングを担当する場合、その商品のことは事業部長が一番よくわかっているケースが多いでしょう。自部署の部長もしくは上司と話せば大抵のことがわかります。経理の仕事をする場合も、会社で一番経理に詳しいのは経理部長であるケースが多いでしょう(それでもプロダクトや経理処理に細かく口をだすタイプの経営者の方もいらっしゃるでしょうし、当然各部署ならでは苦労はあります)。

しかし、こと採用においては、「採用人物像」という一番重要な点を、採用や人事のトップが決めることは少ないでしょう。経営者の長期的なビジョンや計画、全社の今日時点での課題に基づいて、採用すべき人物が決まります。つまり、採用担当は、要件定義のプロでなくてはならない一方で、採用人物像の決定権限を持っている存在ではないことが多いのです。
結果的に、協議する相手が、役員や各事業部長になりがちです。しかも協議する内容は「人間」についてであり、言語化の難易度が非常に高い水準です。その言語化の難易度が高い「採用人物像」を正確に擦り合わせることも難しいですが、今度は役員や事業部長の頭の中にあるビジョンやミッションを、採用候補者に正確に伝えなければなりません。場合によっては本人も明確に言語化できていないことを、自社についてほとんど知らない候補者に対して正確に代弁していくのは困難です。この点はマーケティング会社とも似ています。

しかし、さらに不幸なことに、他社の製品についてヒアリングしてマーケティングしていく仕事とは異なり、自社のことを伝えていく仕事ですので、「正確に」ということにさえこだわらなければ、なんとなく自分一人でもできてしまうのです。新任者は、この役員や事業部長たちの頭の中を言語化するという非常に心理的負荷の高く、なおかつ自力でもそこそこのクオリティにはなってしまう仕事を前に、「全部自分で考えて、自分でやった方が早い」という道を選び、「全て自分でやらなきゃ症候群」に陥ります。

ケース2:採用担当は会社の顔?

次は勉強熱心な採用担当ほど陥りがちな「採用担当は会社の顔」というタイプです。
採用の業界は、人と人の交流や情報交換が非常に盛んなため、毎年のようにトレンド的なものが生まれてきます。また、対人の仕事であるため、候補者が入社を迷う「採用競合」という明確な競争相手が存在します。さらに、候補者によって就職先選びの軸が様々です。自社のスマートスピーカーを買おうとしている顧客に関して、競合相手は別のスマートスピーカーか、範囲を広げたとしても秘書や家事代行サービスでしょう。

しかし、採用においては、シェアリングエコノミーとソーシャルビジネスを展開しているガイアックスの採用競合が、BtoBマーケティングの会社な時もあれば、人材系の会社、コンサル会社、福祉系の会社、もっというと、VC、NPO、国家公務員、大学院への進学、自分で起業、フリーランスという選択肢と争うこともあります。
これらの事情から、他社の事例や世の中のトレンドに敏感になりがちです。そしてここ数年起きていることの一つとして、「採用関係者のタレント化」というものがあります。採用担当者がブログをたくさん更新したり、SNSを実名で運用して情報発信したり、採用候補者の質問に丁寧に答えたり、Youtubeチャンネルを更新したりという動きです。これらは、採用担当者の目的達成のための手段としては有効です。

しかし、これらは一つの手段であり、絶対に行わなければならないことではありません。ですが、勉強熱心な採用担当ほど、自分がフロントに立たなければならない気がしてくるのです。その延長線状にも「全て自分でやらなきゃ症候群」が待っているのです。

達成条件は「自社に必要な人材を自社に迎えること」

前述の2つのケースをはじめ、様々なことをきっかけに「全て自分でやらなきゃ症候群」に陥る採用担当は非常に多いです。それでも成果が最大化されるならば問題ありません。

しかし多くの場合そうはいきません。極端な言い方をしてしまえば、採用担当に一人でできることなどたかが知れているとも言えるでしょう。本人の「仕事できている感」は満たされるので気付きにくいのですが、成果とは比例しないことが多いです。採用担当が採用に関する全てを自分でやってしまおうとする状態は、経理担当者が、全従業員の領収書を自分で時系列順に並べて文字起こししている状態に近いかも知れません。広報担当者が、自分一人でニュースになりそうな取り組みを起こし続けている状態と言っても良いでしょう。

採用担当の目的、仕事の達成条件は、本記事冒頭でも触れましたとおり「自社に必要な人材を自社に迎えること」です。バレーボールで言えば、「相手よりも早く25点取ること」「それを3セット(もしくは2セット)達成すること」と同じです。その過程でどんな戦術を取ろうとどんな試合展開になろうと、ルール違反をしなければ問題ありません。
「全て自分でやらなきゃ症候群」というのは、自分で25点取ろうとしている状態と同じです。自分に飛んできたボールは全て自分で打ち返す。仲間のサーブには期待しない。そんな状態です。そんなスーパーエースの活躍に頼りっきりのワンマンバレーチームも稀にあるが、大会で優勝できる確率は極めて低いでしょう。

幸いなことに、候補者は採用担当以外の話には耳を貸さないわけではありません。入社のきっかけが採用担当の功績でなければならないというルールも存在しません。
「自社に必要な人材を自社に迎えること」に活かしうる要素はいたる所に溢れています。誰よりも会社の未来を考えている経営者がいます。プロダクトのことを誰よりも愛している開発者がいます。候補者と近い年齢や生い立ちの社員もいるかも知れません。自社のことを外からの視点で語ってくれる社外のファンもいるかも知れません。その他並べればキリがありません。また、50人の会社であれば、50人のメンバーが毎日活動しています。50種類の会社への思いが存在しています。
また、「月曜から夜ふかし」(日本テレビのTV番組)風に言えば、「自社社員の個人的なニュース」が、毎日最低50種類は生まれているはずなのです。それらを全て活かして戦ってくる採用競合に対して、一採用担当の力で太刀打ちするのは非常に難しいでしょう。

採用担当は会場全体を見渡すセッターであれ

私は、採用担当を「自社に必要な人材を自社に迎える責任者」と考えた場合、バレーボールで例えるなら「セッター」のような役割を果たすことを進めたいと考えます。
コート内の仲間の能力やコンディションを把握し、さらに相手コートの状況や試合の流れも加味し、今取るべき最善策を選び続ける。自分がフェイントやツーアタック(セッターが仲間にトスすると見せかけて自分でスパイクを打ち込むこと)で得点することもありますが、仲間のスパイカーを上手く活かして最終的に相手よりも早く25点を積み重ねる役割です。
セッターは決して自分で点を取ることにこだわりすぎてはいけません。また、常に最善策を選び続けるためには、全てのチームメイトの得意/苦手なトスの高さと角度、決定率の高いスパイクコース、その日のコンディションや体力の残り具合まで把握する必要があります。また、相手の選手全員のレシーブやブロック能力を把握して攻め方を選ぶ必要もあります。自分のトスの技術を鍛える以外にも行うべきことがたくさんあるのです。
採用活動が採用担当同士のラップバトルやディベートではなく、採用競合との全社を上げての総力戦である以上、自社で起こっていること、自社の各部署のこと、自社のメンバーのことを誰よりも把握しておかなければ目的達成は難しいでしょう。私はバレーの最新の理論や戦術に詳しいセッターよりも、その日の会場の全てを見渡せているセッターが採用力の向上に必要不可欠だと感じています。

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Written by

TakumiNagare
CANTERA ACADEMY2期卒業。立教大学経営学部2017年卒。 大学時代はエグゼクティブポジション特化のヘッドハンティング会社でインターン。 就活を経てガイアックスに内定後は、新規事業で内定者インターン。半年間CtoCマーケティングを担当した後、さらに半年間、関西拠点の立ち上げ責任者として大阪にある社長の実家に移り住み、採用、オフィス作り、営業統括、バックオフィス諸々。 2017年新卒入社後は、新卒採用担当、採用マネージャーを経験し、現在はグループ全体の人事支援部門を自ら立ち上げマネージャーを務める。
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