「心理的安全性」がチームの多様性と生産性を高める
ダイバーシティにおける日本の現状
ダイバーシティについては、前回の記事「これからの中小企業に必要な3つの組織マネジメント手法」にて触れた通り、ほとんどの企業で推進している施策のひとつではないでしょうか。ただ残念なことに、ダイバーシティというと日本ではいまだに「女性活躍」や「外国人採用」という文脈で捉えられることが多いのが現状で、いまだ本来の意味合いで推進できている企業はそう多くはありません。
本来のダイバーシティとは「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包括)」であり、「人はそれぞれ個別で多様である」という前提から、個人の特性を優劣ではなく違いだと認識することからはじまります。そしてその多様性を認め活かすことで、これまでは表に出てこなかった視点での発想や化学反応を生み出し、創造性や生産性を高めたりイノベーションが生まれやすい組織の状態です。
ではどのようにすれば、「それぞれは個別で多様である」とお互いを認め活かし、創造性や生産性を高める土壌を創ることができるのでしょうか。そのためのキーワードが「心理的安全性」です。
「心理的安全性」とは何か
心理的安全性とはわかりやすく言うと「チーム・組織で活動する中でメンバー全員が発言することに対し恐怖や不安を感じていない状態」です。
1999年にハーバードビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授によって提唱され、「無知、無能、否定的、邪魔だと思われる可能性のある言動をしても、このチームなら大丈夫だ」という『信念』というように定義しています。
さらに2016年にグーグル社が「心理的安全性の高いチームは生産性が高い」という研究結果を発表して以降、日本でも高い注目を集めるようになりました。
心理的安全性が高いチームの特徴は、お互いを認め合い、尊重し、助け合う意識が高いことが挙げられます。これは年齢や立場や経験が異なる中でも、チームのゴールに向かってそれぞれが「良い」と思ったことを遠慮なく発言・行動できたり、「気になること」や「ちょっとしたアイデア」などを表に出せたり、もっというと「不安」に感じたり「助けてほしい」といったようなことまで遠慮せず言えるということです。
心理的安全性が高いと、特に新人は不安や助けを口に出しやすくなったり、ベテランの感覚にはない最新のトレンドや知見をポンと発言できたりなど、学習効果だけでなくチームに対する貢献ができやすくなります。
またベテランにとっても仕事を抱え込んだり自分の弱さを見せたりすることで周囲の助けをもらうこともできやすくなります。結果、お互いの強み弱みを理解し、それぞれの強みを活かして弱みをカバーするという、理想のチームが出来上がります。年齢や経験や属性を超えた、それぞれの強みを活かし最大パフォーマンスを出そうとするチームに近づいていくのです。
「心理的安全性」を高めるポイント
心理的安全性のあるチームには以下のような習慣があると言われています。
●普段から挨拶をしている
●感謝の言葉を言っている
●小さなグループで固まらず、全員とそれぞれ話している
●人が話している時に遮らない
●質問しやすい雰囲気で、質問に対して誠実に回答している
ではこのようなチームをつくるにはどうしたらよいのでしょうか。エイミー・C・エドモンドソン教授は著書「チームが機能するとはどういうことか」で心理的安全性をつくるための行動として以下のポイントを挙げています。
□ 直接話しかけやすい親しみやすい人になる
□ 自分の知識の限界を認める
□ 自分も間違うことを積極的に示す
□ 参加を促す
□ 失敗は学習する機会であることを強調する
□ 具体的な言葉を使う
□ 境界(規範)を設ける
□ 境界を越えたことについてはメンバーに責任を負わせる
さあ、皆さんのチームはいかがでしょうか?
そもそも人は個別で多様である
現在の日本の組織においては、「人と違うことを言うと輪を乱す」「上司と異なる意見を言ってはいけない」「物事に反対すると周囲を敵にまわす」といったような意識を持った方が多くいらっしゃるのではないかと思います。本来人は生きているだけで多様であり、人それぞれが異なる存在です。それぞれが異なる経験をし、異なる知見を持ち、異なる強みと弱みを持ち合わせています。興味関心やモチベーションも異なります。だけれども人は相手を異なる存在としてみることができず、自分と同じように感じ、同じように認識していると思いやすい。だからこそ対立が生まれ、それぞれの正義を振りかざしてしまいます。
心理的安全性をつくる上で、私が最も重要だと感じているのは「相手の存在そのものを承認し、受け止める」ということです。ほとんどの場合「人はみな良かれと思って発言・行動している」ので、自分自身が気に食わなかったり理解できない発言・言動だったとしても、一度立ち止まって「なぜこの人はこの発言・行動をしたのだろうか?」と考えること。そして相手の発言・行動の意図を受け止め、相手を承認すること。これこそが相手を理解する第一歩であり、相手を尊重することだと思っています。
さいごに
ひとりひとりが異なる生き物であるということを理解し、お互いに尊重しながらも、チームとしての目的に向かって遠慮なく意見を言い合う。そんなチーム・組織が増えていくと、日々の幸せを実感しながら仕事をする人が増えるのではないか。
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