渋沢栄一の人材観から組織づくりを考える
渋沢の人材観
「論語と算盤」の中に”常識と習慣”という章があります。ここに渋沢の人材観の一端が出ています。
そのキーワードが”完き人(まったきひと)”。完き人とは智・情・意(知恵、情愛、意思)の3つがバランスを保ち、均等に成長した常識人を指します。そのような人を日本中に増やすことが重要であると、本書では説いています。
また渋沢は完き人の反対を”偉き人”と言っており、それは智・情・意のバランスは悪いが何かに突出しているような人を指しています。
渋沢は偉き人の価値も認めつつも、やはり完き人を増やしていることを重視していたようです。
当時の日本の状況を踏まえ、完き人を教育という形でどのように増やしていくのか、強烈な問題意識を持っていたのだろうと思います。
人材育成と人の組み合わせ
人事や経営者に自社に求める人材像を確認していきますと、この完き人のようなすべてを兼ね備えた人材になることがよくあります。
完き人は組織を牽引できる貴重な人材になりますので、それを希望することはよく理解できます。
ただ、実際このようなバランスのとれた人は少ないのではないでしょうか。
採用後に育成可能な要件は極力捨てて、採用のタイミングで最低限備えてほしい要件を見極めることが、採用要件を考える際に重要になります。
合わせて人事の現場の方と接して、”完き人”を求める傾向が強いことも感じます。
一方で、バランスは悪いが突出している偉き人を組み合わせることで、組織としてバランスをとるという考え方もあります。
個人的にはこの考え方の方が現実的であり、かつ上手く組織づくりができれば組織全体のパフォーマンスも高くなると考えています。
木の個性、人の個性
宮大工の西岡常一さんは法隆寺や薬師寺の解体修理を手掛けた方です。
そんな経験豊富な西岡さんが、「飛鳥時代の宮大工は木の個性に合わせて仕上げているので、ひとつひとつとして同じ物はない。強い木は強く、弱い木は弱いなりにうまく木の質を見抜き、それぞれ使える所につかっている」と語っていらっしゃいます。
そして、「今のようになんでも規格に合わせて、同じようにしてしまうのは無理が出る」ともおっしゃっています。
これは経営者や人事としては、ひとりひとりの社員の個性を理解し、彼らの良さを活かすような配置や組織を作っていくことが重要であることを示唆しています。
そして人材育成の観点においても、規格に合わせようとすると人も木と同じく無理が出るという本質的なことを教えてくれています。
組織づくりを渋沢と話をしてみたい
渋沢の人材観に触れて、採用から組織づくりまで自身の考えに及びました。
私はあらためて、採用要件と人材育成観点を連動させながらも分けて考えること、そして人の個性を活かした配置や組織づくりを考えていきたいと考えました。
同時に、人として完き人が増やすことが大事でありながら、人と人を組み合わせ組織として”完き(まったき)組織”をつくる観点が重要だと思うに至りました。
法隆寺や薬師寺は強い木と弱い木を組み合わせ作られ、完成物として美しい構造体になっています。
これは人と人を組みあわせることで、組織として完き組織をつくることが可能であることを示唆します。
渋沢は組織づくりという観点でどのような意見を持っていたのでしょう。
数々の修羅場をくぐり抜け、500社前後の企業の設立や発展に関わった渋沢なら必ずや組織づくりに関して考えを持っているに違いないと思います。
論語と算盤や、来年2月から開始するNHK大河ドラマを通じて、彼の組織づくりの考えに触れてみたいと強く思っています。
さいごに〜2020年を総括して〜
戦略人事講座ベーシックをスタートさせたり、講座の卒業生が執筆した記事を掲載するCANTERA NOTEをスタートさせるなど、新しい挑戦を始めた年でした。
もっと多くの人事の方にベーシックの存在を知っていただきたい、そしてCANTERA NOTEをもっと多くの人事の方に見ていただきたい。焦りのようなものがありつつ、理想とするものとのギャップがあり、自分たちの至らなさを痛感しています。
一方で、これらの活動を応援してくれる仲間が徐々に増えていることが、今年最も嬉しい、また有り難いことだと思っています。
来年はドラゴンボールの元気玉のように、仲間を信頼し、より力を集め、日本の”人と組織”を支える存在になっていきます。引き続き応援よろしくお願いいたします!