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【トラブル対処にエニアグラム】人間関係トラブルに人事はどう対処するか【後編】

【トラブル対処にエニアグラム】人間関係トラブルに人事はどう対処するか【後編】

上司Aさんと部下Bさんは相手をどう見ているのか

再掲になりますが、まずは前回の2名それぞれの言い分をもう一度見てみましょう。

【上司Aさんの言い分】

仕事を指示すると、「あれもこれも確認してください、この件はどうしましょう?」と細かいことを延々と質問攻めしてくる部下B君。何から何まですべて指示を求められても困る。仕事をする以上、誰でも成果を出すために必死で考えて課題を乗り越えるのが当然だし、そうやって人は成長するのだ。少しは自分で考えてくれないと困る。

そこでとりあえず「とにかくこうしなさい」と、やるべきことを端的に指示している。目的がしっかりしていれば、あとは自分で考えて適切に行動するのが当然だからできるだろう。私の指示だと言えば周囲も協力することは当然だから、皆が彼に協力するのに。

しかしB君は、私が指示したように業務を進めない。あまつさえ、あまり重要ではない方向に時間と労力をかけて、締め切り直前まで状況を報告してこない。状況がわからないとイライラする。

上司に報告するのは仕事として当然なのに、なぜこちらからいちいち訊くまで報告しないのか?B君はきちんと仕事をしてくれない。一体どうなっているのか???

【部下Bさんの言い分】

上司Aさんから業務を指示されたので、目的・背景・詳細を確認したいと思って必要な事柄を質問しました。

するとAさんは「忙しいのに全部私に指示を仰ごうとするな、そんなことなら私が自分でやったほうが早いではないか。自分で考えればわかることばかりだろう。」と、説明を嫌がられるのです。

これでは必要な情報が得られず、仕事をするうえで常に不安がつきまといます。

各方面に根回しして了承を取り付けるには、事前にしっかりとメリット・デメリットの検討や間違いのない根拠が必要なんです。少ない情報だけで相手を動かそうとするのは無理があります。ただでさえ上司の強引な発言は嫌われているのに…。

それでも仕方なく自分で仕事を進めていたら、まだ締め切り前なのに「B君、なぜ指示をした通りにやらないのか?」と指摘されました。説明してくれない中で一生懸命やっているし、あなたの代わりに各方面に話をして頭を下げているから時間がかかって当然なのに!と憤りを感じます。

締め切りはまだ来ていないのになぜ怒られなければならないのでしょうか?これはもうパワハラでは?

上司Aさんは上司として問題があるのではないでしょうか?

結果を出すことにこだわりが強く、積極的に主張し、周囲に指示することで仕事をすすめるタイプの上司Aさん。成功を求めて努力し、最短距離で成果を出そうとする働き方で実績を挙げてきた上司Aさんにとって、部下Bさんの仕事の仕方は「無駄が多く、回りくどい」と感じます。その無駄に付き合わされることでストレスを感じるため、部下Bさんに対する評価を下げ、厳しくあたっているのです。

それに対して、慎重に丁寧に仕事を進め、人間関係や根回しを重視し、リスクヘッジをしながら正確な仕事をしたいという部下Bさん。人の迷惑を顧みず自分のペースで要求する上司Aさんにストレスを抱えています。

自分だけでなく、自部門と関わる他部門の人にも気を遣っているようです。上司Aさんが強い発信で物事を進めようとするときには、他部門に頭を下げることで調整役として行動しています。問題が起きないように最大限の注意をはらって円滑な仕事を目指しているのに、「無駄な動きをするな!」と上司Aさんから言われるわけですから、やはりストレスを感じ、上司に対して否定的になっているのです。

このように、お互いが相手に対して“色眼鏡”で見てしまい、お互いに心の中で否定しあっていると、「社員一丸」や「チームワーク発揮」どころか、話し合いによって問題を整理することも難しくなります。

エニアグラムを使ってトラブルを解決するには

上司Aさんと部下Bさんのタイプを理解しよう

エニアグラムでは下記の9つのタイプに分類して考えます。

今回の上司Aさんと部下Bさんをエニアグラムのタイプに当てはめてみましょう。

・上司Aさん・・・タイプ3(動機付ける人/成功を求める人/達成する人)

達成する人。「成功している自分」であろうとし、美意識が高く、成功するために努力を惜しまない。組織においては積極的に手を挙げ、リーダーシップを発揮する。表では努力している様子を決して見せずに、苦しい思いも感じさせず華やかで有能な人物であろうとする。

一方で、自分が努力している分、他者が努力していないと見るや手厳しく見てしまい、態度に出る場合もある。相手の感情に寄り添うことが苦手な傾向がある。長々とした会話を好まず、端的でテンポの良い会話を好む。相手の感情への配慮や気遣いで成長すると、組織全体に配慮して元気づけを行うような非常に魅力的なリーダーとして成長する。

・部下Bさん・・・タイプ6(忠実な人/安全を求め慎重に行動する人)

自分の居場所(社会的・対人関係)を万全にしたい欲求が非常に強い。不安症の人が多く、とにかく安心したい。真面目で責任感が強く頼りになるが、本人は失敗しないようにかなり頑張っていたりする。組織の中で、自分の居場所・ポジションが危ぶまれるようなマイナス要素を非常に恐れ、リスクヘッジで頭がいっぱいになることもある。真面目で責任をもって業務を遂行するのも、自分が失敗して居場所が損なわれることの恐れが非常に大きいため、ということもある。とにかく不安症から何でもかんでも確認や質問を行うことで、鬱陶しがられるケースが多い。

一方、関わる人が困っているときは、自分が損をしても助ける傾向がある。「場」をよく見ており、「場全体としてうまく行くように随所で立ち回る」ことで、トラブルを未然に防ぐ役割を果たすことが多い。「心配していることは、ほとんど起こらない」ということを受け入れ、おおらかさを身に着けることで成長する。

このように、性格タイプによって、行動の傾向も、その動機も異なります。「タイプごとの違い」「自分とあの人のベースの考え方」を職場内で共有できていれば、多くの行き違いやストレスを解消し、協力関係を高めることができるはずです。そういった相互理解のツールとして、ぜひエニアグラムを活用していただきたいと思います。

上司Aさんと部下Bさんの意見を比較してみよう

では、上司Aさんと部下Bさんの仕事の考え方の違いを対比してみましょう。ただし、仕事の仕方が、タイプによってステレオタイプに固定されるものではないので、あくまで事例としてご覧ください。

上司Aさんと部下Bさんの考えている内容を比較してみると、それぞれの傾向が見えてきます。

■上司Aさん

【指示の考え方】

・仕事をする以上、誰でも成果を出すために必死で考えて課題を乗り越えるのが当然だ
・仕事をする上で、すべて指示を求めるべきではない・指示は、やるべきことを端的に指示すれば十分だ
・目的がしっかりしていれば、あとは自分で考えて適切に行動するのが当然だ
・成果を出すのが当たり前。成果を出さなければ評価できない

【社内連携の考え方】

・「私の指示だ」と言えば、社内の他の人間が協力することは当然だ
・あまり重要ではない方向に時間と労力をかけるべきではない
・やるべきことは明確なので、業務内容は随時報告すべきだ

■部下Bさん

【指示を受ける際の考え方】

・目的・背景・詳細を確認したい
・必要な情報が得られないと、仕事をするうえで常に不安がつきまとう
・動く前に事前にしっかりとメリット
・デメリットの検討や間違いのない根拠が必要
・締め切りは守るけど、社内の相手あってのことなので、そんなに毎日報告できない。質問したら嫌がるのに、報告は細かく求められても……
・成果を出すのは大事だが、成果が出るよう最大限に「手を打つ」のも重要だ
・もらえる情報が少ないほどリスクヘッジに手間がかかる

【社内連携の考え方】

・仕事をするうえで、各方面に根回しして了承を取り付けなければいけない
・根回しのための情報は、事前にしっかりとメリット・デメリットの検討や間違いのない根拠を用意しなければいけない
・上司の強引な発言は嫌われていることを知っている
・連携先から嫌われるような仕事の進め方は良くない
・相手が喜んで協力してくれるように準備とアプローチをしなければ、断られるのが不安だ

これらの内容を見てみると、上司Aさんと部下Bさんでは仕事を進める上で「気にするポイントが異なる」ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。仕事のあるべき姿やポイント・価値観が上司と部下で異なれば、仕事がうまく行かない場合、お互いに否定的な目で相手を見るようになっても仕方ないですよね。

ではどうやって解決すればよいのでしょうか。もちろん最も重要なのは対話と相互理解です。ただ、できればその対話の中にエニアグラムの知恵を組み込んでいただきたいと思います。

エニアグラムから見たそれぞれの動機とは

では、エニアグラムの知恵を活用して、それぞれの動機を見てみましょう。

タイプ3の上司Aさんは、これまでご自身が「任された仕事について、自分で主体的に考えて完遂する」ことで周囲に賞賛され認められるように行動してきました。これまでに積み上げてきた実績、実績の上がる仕事のやり方、社内でのポジションや発言権などを駆使して、しっかりと成果を上げていくことが見えます。

根回しをしようとしてうまく行かないようなら、もはや相手に頼らずに自分でやってしまうこともしばしば。そうやって仕事の実績をあげてきた以上、社内各所との連携について、あえて自分を疑う必要もありません。そこには、迷いがなく、自分が仕事を遂行することに対する誇りと自信が見えます。

一方、タイプ6の部下Bさんの正しさもまた本人にとっては正しいのです。「自分は所属する組織の中で他人の力を借りながら仕事をするので嫌われてはいけない」ということで周囲に受け入れられて認められるよう行動してきました。

周囲と協調性を持ち、信頼関係を築きながら、効率よく連携していく仕事の仕方を好みます。相手が積極的に協力してくれるように、自分が準備万端整えて巻き込みにいかないと安心して相手に依頼できません。

「上司Aさんの一方的な依頼は社内で嫌がられている」という情報は、「部下Bさんが上司Aさんの行動を言われたとおりにそのまま実行したら、自分は連携先から嫌われる」という不安な予想にリンクします。ですから、上司Aさんの指示をそのまま遂行することができません。「情報不足でも関係先に依頼を出せ」と言われることは、部下Bさんとしては「嫌われて失敗してこい」と言われることに等しいといった受け止め方をする可能性もあります。

今回のケースにどう対処すればよいか

今回のケースであれば、下記のような対策が考えられます。

過去1平時から、「人間関係の問題」「感情のこじれ」が起きる前に、エニアグラムを用いて相互理解を深め、内面を含めた話し合いをできる関係を作っておくこと。

過去2問題が始まった当初に、お互いに相手を否定するよりも、相手の真意をくみ取るための対話の時間を確保すること。とくに、否定の意見を言わずに、しっかりと双方の言い分や重視する点を共有すること。

現在/未来:相手の性格タイプや、意図しない行動についての相互理解を深めること。性格タイプに応じた良い部分は認め合い、無意識化での良くない行動はお互いに指摘・改善しあう関係を構築すること。

人間同士が仲良くなるために、「自分を理解してくれる相手かどうか」は非常に重要です。相手が「自分の内面の動機を受け入れてくれる存在である」という認識や意思疎通ができれば、その後のコミュニケーションがとても円滑になるでしょう。

例えば、上司Aさんは、部下Bさんについて

「部下Bさんは安心安全を求め、不安を払拭することで前向きに行動できる。自分は指示を受けたら自分がやり切ることを重視しているが、彼は周囲を巻き込んで人間関係の中で仕事をするスタイルだ。必要な情報であれば、提供してから任せてあげよう。関係先への依頼も、自分が同席しようか。後々、彼が仕事をしやすいように人間関係構築の手伝いができればいいな。自分がアテンドする際に先方に対してどのような接し方を希望するのか、彼の要望を聞いてみよう」

といった対応をすることで、現在のコミュニケーションロスを改善できます。また、将来的に部下Bさんが重視する連携先との関係性構築までサポートすることになるため、部下Bさんにとっても嬉しいことでしょう。

このように上司Aさんの行動が変われば、部下Bさんの受け取り方も変化してきます。

「上司Bさんは社内で勝ち抜いてきた人で、仕事の進め方も非常にパワフルだ。頭が良すぎて付いていくのは大変だけれど、最近は質問や対話に応じてくれるようになってきたのでひと安心だ。そういえば最近、連携先との面談についてアテンドを申し出てくれたのに驚いたけど、さらに驚いたのは『君が先方と仕事をしやすい人間関係を築くために、面談でどのような話をしようか?』と事前に相談してくれたことだ。前までは、『俺の指示したことをなぜやらないのか』としか言わなかったのに、私が主体的に仕事をできるよう育成してくれている気がする。自分はこのチームで上司Aさんのもとでやっていけそうだ。よし、頑張ろう!」

といった具合で改善してくれれば、メンタル・成長・パフォーマンスそれぞれに良い影響が生まれることでしょう。

人事は人間関係トラブルにどう対処すればよいか

人事担当者にとって重要なのは、「社員同士が、相互理解の認識の下で話し合う関係性を作ること」です。つまり、機会や仕組み、組織風土を作ることであり、マネジメント人材、リーダー人材、メンバー人材などそれぞれの立場から、行動変容を促すことではないでしょうか。

問題の渦中にある人たちの動機や価値観の違いを話し合う仕組みや企業風土が進めば、「思い込み」「無意識での行き違い」「人間関係でのストレス」「キャリアロス」など、さまざまな課題を減少させることができると思います。ただ、こういった環境整備は、上司や部下が一人だけで組み立てるのは難しい場合が多いので、人事担当者や経営者が積極的に介入支援して仲を取り持たなければ、なかなか発展しにくいかもしれません。

人事の皆さんには、今までに工夫してこられたことに加えて、エニアグラムの知恵を取り入れていただき、より良い事業発展につなげていただければと思っています。 ご興味があれば、「日本エニアグラム学会90問回答式チェック」でぜひご自分のタイプ診断をしてみてください。

※エニアグラム導入の注意点※

エニアグラムを導入する際には、経営者・人事担当・部門長/マネージャーに注意が必要です。下記の内容について、エニアグラムの専門家に相談したうえで導入をされることをお勧めします。

1:タイプは本人が納得するまで決めつけない

エニアグラムで最も重要なのは自己のタイプ認識ですが、このタイプを当初に誤認(ごにん)してしまうケースが非常に多いです。ワークショップに何十時間も参加していた人でも、気づいてタイプの認識を修正する場合が多々あります。ですから、最初に判定したタイプでも、本人が納得していなければタイプの要素を押し付けてしまわないように注意が必要です。「自分の内面の目を背けてきた部分」に目を向ける学びですので、慎重に対応する必要があります。

2:安心・安全の場を担保する

エニアグラムのワークを行う場合、その中で話される内容はその場限りの情報として扱いましょう。ワークの中で過去に苦しんだ辛かった体験を話すのは、ワークの場のみにしてください。ワークの場を終了した後、業務中などにネタとして話すことは、研修としても職場としても、心理的安全性を破壊する行為になります。マネージャーのマネジメント能力向上にも、メンバーのパフォーマンス向上にも、百害あって一利なしですので、事前に参加者にしっかりと念を押すアナウンスをしておくことをご注意ください。

マネジメントについて学びたい方はこちらもご覧ください。

Written by

Hiroshi_Sumikawa
CANTERA ACADEMY8期卒業。 EC系ベンチャー立ち上げ参画→リクルートキャリア→電子カルテベンダー営業所責任者等を経て、株式会社リソーシズを創業。医療業界で経営コンサルタントとして活動し、事務長として複数の医療機関で経営支援を行っている。 人事コンサルティングでは、主に人間関係トラブルやマネジメント問題に対応。性格類型分析のエニアグラム心理学をベースに経営層/メンバー間の認識ギャップや意思疎通の改善を行い、その後は中長期で組織が活性化するよう、人員体制見直しや管理・教育制度の支援を行っている。
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