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人事の私がコーチングを学んでいてよかったと感じる3つのこと

人事の私がコーチングを学んでいてよかったと感じる3つのこと

職場に関するストレスの多くは人間関係によるもの

2018年に実施されたあるアンケートによると、職場で感じるストレス原因として「人間関係」と回答した人が70%近くいました。

当たり前ですが私たち一人ひとり、育ってきた環境や価値観は異なります。「会社」という組織はそんな個の集合体なわけですから、仮に事業目標が明確であったとしても全員のベクトルを同じ方向に向けることはとても難しいですよね。誰もが事業目標を理解しつつも、裏の目標として自分を守ることや正当化すること、ひどいケースだと異なる意見を持つ人を排除することに多くのエネルギーを費やしています。

では、どうすればそのような状況を打開できるのでしょうか。ここで大きな鍵を握るのが「コミュニケーション」です。

どんなに大きな組織でも、最終的には誰かと誰かとのコミュニケーションに行き着きます。誰かと誰かのコミュニケーションが無数に連鎖することで、組織内の意思決定がなされているわけです。

職場で交わされるコミュニケーションの質が少しでも上がれば、人間関係に対するストレスが減ります。そして、自分を正当化することよりもチーム全員で目標を達成することに多くのエネルギーが注がれるようになれば、事業の成功確率も高まると考えられるのではないでしょうか。

ダニエル・キムの成功循環モデルで提唱されているように、「関係の質」を高めることが“急がば回れ”ということであり、自社の事業の成功につながるとも言えるはずです。

コーチングを学び始めて感じた変化

私は2015年に一般社団法人トラストコーチングでコーチの資格を取得し、現在は認定シニアコーチとして活動するに至ります。

今となっては恥ずかしい話ですが、コーチングを学んだ直後の私は見事に空回り。無駄に質問を投げかけるなどして周囲の人々を困らせていたのです。友人からも「上司がコーチング研修に参加した後から、やたら『君はどう思う?』と質問ばかりしてくるようになって困っている」という話も聞きました。耳が痛いですね……。

せっかくコーチングを学んだのに、なぜコミュニケーションが不自然になってしまったのでしょうか。それは、コーチングを“スキル”としてしか認識しておらず、どの場面でどうコーチングスキルを使うかということに意識が集中していたからだと思います。違う言い方をすれば「コーチングをしようとしていた」ということです。

「コーチングをしようとする」「良いコーチであろうとする」ことは一歩間違うと「相手に影響力を行使すること」が目的になり、本来一番大切なはずの相手のことが見えなくなってしまうリスクがあります。

例えば、あなたが上司と十分に信頼関係が築けていないとします。そんな中、1on1でどんなに質の高い質問やフィードバックを受けたとしても、正面からその言葉を受けたくないかもしれませんよね。つまり、正しいか正しくないかではなく「あなたに言われたくない」という状態です。私はまさにこの状態に陥っていたのでした。

私はそれ以降、コーチングを“しよう”とするのではなく“実装する”ことにしました。自分も相手も大切にしながら、互いに理想な関係性を構築できるようなコミュニケーションを常に心掛けることにしたのです。

それ以降、自分が想像していたよりもさまざまな場面で効果を感じ始めました。

人事の私がコーチングを学んでいてよかったと感じる3つのこと

人事の仕事は「人が関係するもの全て」です。領域が幅広いため、私の一つの決断が相手の人生に大きな影響を与えるような場面もあります。しかし、コーチングを実装したコミュニケーションを意識してからは、常日頃から周囲と信頼関係を構築できていれば大体のことはスムーズに対処できると感じるようになったのです。

そんな私が人事の仕事をする中で、コーチングを学んでいて良かったと感じる3つのことをご紹介します。

1.鳥の目、虫の目、魚の目で見る

人事は経営者の意図を汲み取り、組織や人材の観点から経営戦略の実現を目指します。加えて、経営者と現場の架け橋、つまりコミュニケーションエンジンとしての役割もあります。つまり、経営者の視点で対極的に会社の現状や未来を見つつも、現場で起こり始めているちょっとした変化や各社員の特性・希望するキャリアなども把握している存在ということです。

ところが万が一、私たち人事側に個人の経験に基づく偏見や決めつけがあれば、正しく情報をキャッチすることなく歪んだ形で認識してしまうかもしれません。

ここでコーチングでの学びが価値を発揮するのです。

コーチングは自分以外の誰かとの対話にフォーカスするのみならず、自分との対話の質まで踏み込んで見直していきます。どんな場面で、どんな人と、どんな会話をした時に何を感じるのか。何が自分をそう思わせたのか。徹底的に自分自身を深掘りし、日頃自分自身と交わしている会話も見直すことで、自身が持つバイアスを認知し、コントロールできるようになっていきます。

そうすることで、ありのままの状況を受け止め、複数の視点(鳥の目・虫の目・魚の目)で物事を見れるようになるため、組織内でのバランス感覚を保ちながら、意思決定の質を高めることができるのです。逆に言うと、これができないと周囲から「あの人事の人、経営者しか見てないよね / 現場しか見てないよね」と言われかねません。

2.時間軸を踏まえた意思決定をする

例えば、経営陣は5年後、田中さんにある事業の責任者になってほしいと考えているとします。田中さんはまだ担当職でマネジメント経験はなく、現時点では経験は十分と言えません。しかし、これまでの仕事ぶりから見える本人の性格や強み・弱みなどを踏まえ、あえてこのタイミングで子会社の経営陣として派遣し、マネジメントとは何かを学んでもらおうという判断を下す可能性もあるでしょう。

このように、人材配置や人材育成の場面では、対象となる社員の数年先をイメージした上で、どのような選択肢が本人と会社の双方にとってベストかを考えます。

他にも、例えば、今担当している仕事に魅力を感じられずモチベーションが下がっている鈴木さんと対話している場面をイメージしてみましょう。こんなとき、あなただったらどのように対話を進めますか?

もちろん正解はありませんし、鈴木さんのキャラクターにもよるでしょう。ただ、そもそも今の勤務先を選んだ理由(過去)、どんな想いで仕事をしているのか(過去〜現在)、何が自分のモチベーションを下げているのか(現在)、本当はどうありたいのか(現在〜未来)、今の仕事は将来やりたい仕事にどう繋がるのか(未来)といった流れで、過去と未来を行き来しながらコミュニケーションを取れば、鈴木さんのやりがい向上につながるかもしれませんよね。

本人にとって今は望ましい結果でなくても、未来を見据えた対話を深める。頭では簡単に理解できても、いざ社員を目の前に実践できるかは別の話だと思います。もし自分自身の人事としてありたい姿が曖昧だとしたら、良い人だと思われていたいという想いが前面に出てしまい、その場しのぎの中途半端なコミュニケーションで終わってしまうかもしれません。

3.あらゆる人と信頼関係を構築する

世の中には本当にいろんな人がいます。きっとあなたの勤務先にも多種多様な社員がいるのではないでしょうか。何となく気が合わないな、苦手だなという社員もいますよね。私だって同じです(笑)

仮に価値観が合わなくても、苦手な相手だとしても、それが理由で判断がぶれたり、相手を排除しようとすることはプロフェッショナルとしてあるべきではないと思いませんか(もちろん、周囲や会社に損失や危害を与える人には厳正に対処する必要があるのは当然ですが)。

私が人事として特に大切にしていることは「誠実・公平・透明」です。

例えば、会社や特定の人物に対して強い口調で批判をする社員がいるとします。でも、もしかしたら、その社員は会社に対して強い思い入れや期待があったからこそ憤慨しているのかもしれないし、何か必死に守りたいものがあってそれが怒りという感情として溢れ出ているのかもしれません。

言葉の裏に隠れている感情を“聴く”ことではじめて見えてくる世界があります。自分を主人公とするメガネで世界を見るのではなく、状況に応じて相手のメガネで物事を見ると、いつもとは違った角度からの気づきがあるかもしれません。

合わない人を排除することはとても簡単。しかし、それが本当にお互いにとって、強いては会社にとってベストなのでしょうか。

私はコーチングを学ぶことを通じて、自分が苦手な人のタイプとなぜ苦手なのか、自分がもつ人間関係の特徴は何なのかを明確に言語化できるようになりました。言語化できるようになってからは人間関係でイライラすることも、うまくいかないことも、ほぼ無くなりました。

私たちは相手が思いがけず発した何気ない一言で、つい相手を「こういう人に違いない」と決めつけてしまいます。でももしそれが誤解だとしたら? その誤解に基づいた意思決定によって相手の人生に大きな影響が及ぶとしたら……? 残念ながらこうした状況は頻繁に起こっているのが事実です。

あらゆる人と信頼関係を築けるようになれば、さまざまな情報がいろんな立場の人から入るようになり、より正しい意思決定をすることにつながります。問題が発生した時にスムーズに話し合い、ことを解決することもできるはずです(ただし、当たり前ですが自分が絶対に交流を持たない/近づかないと決めた人とはあえて交流する必要はありません)。

コミュニケーションのあり方を進化させよう

私たちは毎日、自分も含んだ誰かとコミュニケーションを取っています。しかし、あまりに普通のことなので、学校でもコミュニケーションのあり方を教わることがありません。

一方で、コミュニケーション一つで私たちはひどく落ち込んだり、ときめいたりします。もし私たち一人ひとりが自分のコミュニケーションを見直したとしたら世界はどう変わるでしょうか。あなたの職場はどう変わるでしょうか。そして、私たち人事がもしコミュニケーションのプロになったとしたら、日本全国の会社はどのように変わるでしょうか。

流行りの人事制度、頻繁に繰り返されるサーベイなど大それた施策を導入せずとも、実は自分が日々周囲と交わしているコミュニケーションのあり方を見直すことで解決することもあるはずです。

世の中全体で見れば、DXの流れが止まることはありません。しかし、これからの時代もどこかで必ず人間が介在するはず。デジタル×アナログの共存が求められる今、私たちはデジタルに関して圧倒的な進歩を遂げていますが、平行してアナログのあり方も進化させる必要があるのかもしれません。

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Written by

CANTERA ACADEMY3期卒業。 新卒で伊藤忠商事に入社。入社後は人事・総務部配属となり、新卒採用・海外人事(駐在員処遇、出向対応、現地生活調査等)に従事。2018/7にHR Tech、データ活用組織を立ち上げ、その後全社研修企画も兼務。2019/7より全社で新設された「第8カンパニー」の人事担当を務める。一般社団法人トラストコーチング認定シニアコーチ。
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