CANTERA NOTE

Vol.1

代表堀尾が語る「いま、人事に書く力が求められる理由」

代表堀尾が語る「いま、人事に書く力が求められる理由」

もともと人事は書く力が求められる職種

——堀尾さんが人事にとって書く力が必要だと思う理由はどういったところにあるのでしょうか。

書くことは“言語化する”ということも含まれると思うのですが、人事は言語化し伝える対象者が非常に多い仕事なんですよね。

——言語化する対象者が多いとは、具体的にどういうことなのでしょうか。

例えば、学生や転職希望者など採用候補者とのコミュニケーション、プレゼンや面接で言葉を伝えなければならないですし、社内においても、上層部への提案、経営企画との人材に纏わるやりとり、社員との面談や社員への周知や依頼などで言葉を使うことが多いですよね。

——確かに人事は他の部署の社員と比べても、コミュニケーションを取らなければならない対象者が特に多いかもしれないですね。

そして、人事は、自分自身の言葉よりも経営者の考えを言葉にして伝える役割も担っています。人事は経営や事業成長をすすめるための手段。つまり、人事の言語化するスキルが高いか低いかによって導かれる成果が全然違ってくるのです。

ただし、経営者の言葉や会社のルールを杓子定規に伝えるだけでなく、そこにどう自分なりに言葉を添えて相手に伝わるようにするかが重要。特に、人事が伝える内容は、相手にとって受け入れにくいことや難解なことも少なくない。きちんと伝えないと相手が間違った解釈をしてしまう可能性もあります。

例えば、経営者が「青い会社にしたい」と言った場合、青の受け取り方って人それぞれ何十色もありますよね。人事は、社員全員が同じ青色をイメージできるように、経営者の言葉を解釈して適切に伝えなければならないのです。

だからこそ、人事は、話す力はもちろんですが、同じくらい書く力も必然的に求められるということです。

チャットコミュニケーションが主流に。ますます書く力が問われている

——コミュニケーションといえば、近年特にSlackやチャットワークなどでのチャットコミュニケーションが日常的になり、書く力が試されるシーンが増えましたよね。

本当に増えましたね。特にリモートワーク下で、テキストでどう伝えきるかが試されることが増えた印象を受けています。

また、コーポレート部門自体がトランスフォームしてしまってるので、ジャンルの違う人と働くことも多いですし、複数の情報をマルチに受け取りながら仕事を進めないといけない。だから余計にチャットツールを使いこなして、テキストで的確に伝えなければならない局面が増えています。

——ただ、チャットだと、テキストで受け取る言葉のニュアンスと、対面で話して受け取る言葉のニュアンスが変わってくるということも少なくありません。

そうなんですよね。直接会えなくてもZoomなどで顔を見ながらお話しできると、相手の表情をうかがえますが、テキストだとそれができない。かつ不特定多数に対して平均的な合格点がとれるテキストを書けないといけないんです。

それに、チャット上では新入社員1年目でも社長でもすべて均一化されちゃっています。努力する間もなく不特定多数に対するコミュニケーションマネージメントの力量が問われていますよね。

僕の場合“子どもおっさん”みたいな顔だし(笑)、そんなに相手に対して不快感を与えるような声ではないはず。そのせいか、何を言ってもあまり嫌われないんです。ただ、書くという土俵の中ではそういう武器は使えないし、平等ですよね。

——確かにテキストでのやりとりは誰もが平等ですね。

だから、戦い方を変えないといけないんです。

今まで人事は、社内調整したり、いろいろな人に何かを伝えたりするときには、必ず会って話しそうとしていたし、そのほうが早いと思っていたはず。でも、コロナ禍になってリモートワークになり、Zoomを使うようになった。しかし、Zoomもあらかじめスケジューリングされていないとコミュニケーションが難しいですよね。それでも起こりうる有象無象の問題を解決しなければならないとなると、顔を見て話すよりもテキストで伝えることが先になることも多いでしょう。

炎上させるのか、火消しできるのか、盛り上げられるのかなどをイメージをしながら自分の言葉でテキストを書けないとなると、やはり人事として生き抜いていけないですよね。

なぜいま人事に書く力が特に求められているのか

——コロナ禍以前でも、人事が書く力が試されるシーンっていくつかあったと思うのですが、主にどういった場面でしょうか。

局面としては採用が多いですね。パンフレットや採用ページなど不特定多数にいつでも見てもらう求人媒体や最近ではSNSですね。

——最近採用でSNSもかなり活用されてますよね

3年前くらいからTwitter採用が流行していますよね。

SNSに限らず、最近だとClubhouseもそうかもしれませんが、流行るものってどれも共通してコミュニケーションや体験価値を提供していますよね。となると、SNSでは結果的にどんな体験ができるのかを伝えることがとても重要なんです。つまり、候補者に「この会社に入社したら、どんなふうに働けるのか」「この会社でどんな人たちと働けるのか」とイメージをしてもらえるように書く力で伝える力が問われているのだと思います。

——これまでも人事が書く力を向き合わなければならないシーンが多かったはずですが、その割にはそれほど重要視されてこなかったのはなぜでしょう。

外部のプロの方におまかせすることが多かったからかもしれないですね。採用パンフレットや採用プレゼン資料とか、社内向けにも株主総会や決算発表会の資料も社内ですべて作成するということはほとんどありませんでしたから。

社内向けのマネージャー向け研修や営業の説明会などの資料作成などもありますが、そういう仕事はたいてい書くことが得意な方に割り振られているケースも多かったのではないでしょうか。

——しかし、いま人事に書く力が求められているのは、外部の方にお願いしづらい状況があるということでしょうか。

その通りです。

コロナ禍以前は、事業も経営もある程度計画したものに対して準備を進めることができたのですが、コロナによって1〜2年先の経営状態がどうになるか分からなくなってしまいました。そうなると、今まで以上に非連続的な事業成長の中で人事も都度変化しながらやらなきゃいけない。準備して考えていてはもう間に合わないんですよね。誰かにお願いする時間がない分、人事自身で書いて伝えなければならない作業が多くなっています。

また、SNS運用も自分たちの言葉で発信したいと考える企業や、採用を目的にしたオウンドメディアを社内で運用する企業も増えていますよね。特にベンチャーやスタートアップとかだとコスト面から外注するより内製することを選択する動きもあると思います。

会社や市場の変化だけではありません。雇用する方々が正社員や契約社員だけではなく、兼業や副業、業務委託の方とも契約しながら人事をやりくりしなければいけない状況も一因だと思います。特に会社独自の用語とか、その会社ならではのルールがあると、それを外部の人に依頼して書いてもらうのは難しい。社内を十分理解している人事が書くのがベストですよね。

——そういう状況にあるなかで、人事が何かを書いて誰かに伝える際に、何に気をつけるべきでしょうか。

「書いてもすべてを読んでくれない」という前提に立たなければいけないということですね。それくらい皆さん仕事に追われているということを念頭におくことですね。

——なるほど、特にチャットなどは会話が流れちゃうので、パッと見て解釈しちゃうことも多いかもしれないですね。

よく読んだらちゃんと理解してもらえる内容になっているかもしれないけど、その文章を読む人やタイミングによって受け取り方や解釈も変わってくる。短時間で多くの情報量を詰め込める映像とはそこが大きく違うなと思いますよね。

それに、テキストはそのままシェアされたり、言葉になって誰かに伝わる瞬間が特に多いと思うんです。なので、間違った解釈のまま伝わってしまう可能性もありますよね。

堀尾さん自身が書く力を試された瞬間

——堀尾さん自身が書くときに意識していることを教えてください。

利己的であり利他的であることですね。相手のことを思うばかり自分の個性を殺してしまってはいけない。利他的になりすぎるほど結果僕って自己満足なんだなと最近思います。何にも伝わってないことがある。相手の時間を消費させて終わりだなと、動画以上に書くって目で見て読んでなんだろうと思う時間が多い。

時間をかけて相手のことを重んじるばかりに自分のことを伝えきらないとか自分があるべきことを言わないというのは非常に良くないので、利他のバランスはちょっと考えてます。

相手のことを想像しながらコミュニケーションを取りつつも自分の言いたいことをちゃんという。そして、言わなくてはいけないことを時に厳しい言葉でちゃんと伝えるということ。これは人事に求められるところですよね。

——文章を書くときやチャットで何かを伝えるときは言葉を選んだり、書き直したりすることも多いですか。

僕の場合はSlackで書き直すこと多いです。だから「編集済」がやたら多いと思いますよ(笑)

教えてもらえるという環境がない前提に立って、そういう機会を作って検証作業をしないと、書く力は身につかないと思います。書くことに対して自己投資して欲しいですね。

——ちなみに、堀尾さん自身は書く力を試されたと思った瞬間ってありますか。

本音で言うと、毎日ですね。

——それは驚きです!「こう書かなきゃ良かったなぁ」と後悔することもあるんですか?

そうやって後悔しないように「いつも伝わってないだろうな」って思いながら書いているかもしれないですね。

会話だとキャッチボールができるんですけど、書くことってドッジボールぽいなと思っていて。顔をあわせて会話するときは、表情を見てキャッチボールできている感覚はあるのですが、書いて伝えるって相手の反応が見えないじゃないですか。リアルタイムで反応が返って来ないし、反応が返ってきたとしても違う方向に行っちゃってることもある。だからこそ、伝わらないことを前提にして相手の反応を想像しながら書かなきゃいけないって思うんですよね。

ただ時として、ドッジボールでぶつけないと真意が伝わらないこともある。伝えたいことと相手によって、ドッジボールとキャッチボールをうまく使い分ける必要があると思います。

——人事として働いているなかで、どういうときに文章を書くのが辛いですか?

何か大きな出来事や問題が起こったあとで、何かを伝えなきゃいけないときですね。伝え方によって相手の温度や心拍数が変わる局面における文書リテラシーがないことを悔やむことが多いです。モチベーションを下げてしまう瞬間が怖いですよね。

例えばよかれと思って「頑張れよ」っていうのも書いて伝えることって難しくないですか。話した方が思いやテンションが伝わるから楽ですよね。

人事が書く力を身につけるためにやるべきこと

——人事が書く力を身につけるメリットはどんなところにあるのでしょうか。

まずは「社内での信頼を得る」ことができます。

コミュニケーションがチャットツール中心になっているので、書く力がないと自分の思いは伝わりませんし、誤解されて評価が低くなるのは当然のことだと思います。今までは一緒の空間にいて、笑顔で挨拶したり、言葉を交わしたりするだけで存在価値を証明できたものが、書いて伝えないとどこにいるのかさえ分からない状況なのですから。

また、コミュニケーションというものがない人事の行為施策は一つもありません。評価制度でも採用でも人材開発でも、常に社員が昨日と同じ状態以上にパフォーマンスを上がられる状態にしなきゃいけないんです。それをうまくフォローするためにコミュニケーションを取る際に、書くことが欠かせませんからね。

あとは「アウトプット力を身につけられる」ということでしょうか。

アウトプット力は人事に限らずいろんな職種でも必要とされる力ですが、特に人事は、インプットした情報や知識を正しく誰かに伝える役割を担うことも少なくありません。そのためには、できるだけ適切で分かりやすいアウトプットが求められます。自分が得たものを書いてアウトプットする力が身につけば、それがわかりやすく実績として積み上がり、人事としてのキャリアアップだけでなく、人事以外の職種へのキャリアチェンジも叶うかもしれません。

——人事の方々が書く力を身につける、スキルアップするためにはどうしていけば良いんですかね?

やはり書くスキルを教えてもらえる場へ自ら出向かないといけないでしょうね。

しかし、営業や経理、財務などの職種と比較しても人事って学ぶ場が非常に少ないんですよね。人事の中で「ライティング力を身につけよう」と旗振ってやってくれる場って想像できないですね。ライター講座や文筆講座みたいなのに通ってる人事なんて少ない気がしますし、書くだけにフォーカスした人事の学びの場というのは正直ないに等しいです。だからこそ、人事の方たちが言語化にまつわる書籍をメチャメチャ買ってるという状況もよく分かります。

ただ、インフルエンサー的な存在の方々が書くこと自体をなにか高尚なものにしてしまっている部分もあるので、書くこと自体が恐れ多いものだとか、かっこいい文章を書けないとダメだとかと思いすぎている人も多いかもしれません。

——そんな中、堀尾さんはCANTERA NOTEというメディアを立ち上げ、人事が書ける場を用意していますよね。

はい。やはり、人事に書く力は欠かせないと考え、人事の経験を共有し合う場としてCANTERA NOTEを立ち上げました。

CANTERA アカデミーの卒業生や講師が記事を書いています。日頃、SNSやnoteなどでも書いている人もいるかもしれませんが、CANTERA NOTEもアウトプットの場のひとつとして用意しました。

CANTERA NOTEでは記事を執筆したら、プロからフィードバックを受けることができます。読みやすい文章になっているのか、本当に伝わっているのかを客観的に判断してもらえる機会はなかなかないと思います。

——近い将来、CANTERA NOTEを通じて、社内外に通用する書く力を身につけた人事がたくさん活躍する姿を見られるようになるかもしれませんね。堀尾さん、貴重なお話ありがとうございました!

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これからも「人事と書く力」をテーマに連載してまいります。次回の記事もお楽しみに!

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