CANTERA NOTE

Vol.2

佐藤編集長に聞く「いま『Works』が書く力を特集した理由」

佐藤編集長に聞く「いま『Works』が書く力を特集した理由」

リクルートワークス研究所の機関紙『Works』を読んでいる人事は多いでしょう。人や組織ににまつわるテーマを幅広く取り上げる同誌の、昨年12月号で「書く力」について特集されたのはご存じでしょうか。

なぜ、このタイミングで「書く力」を特集したのでしょうか。第2回目となる今回は『Works』の佐藤邦彦編集長にお話をうかがいました。

 

■プロフィール
Works 編集長 佐藤邦彦氏
1999年東京理科大学理工学部卒業。同年、アンダーセンコンサルティング(現 アクセンチュア)入社。 業務改善・IT導入支援などのコンサルティングに従事したのち、2003年にアイ・エム・ジェイに転職し事業会社人事としてのキャリアをスタート。7年半の在籍中、採用、育成、制度運用、組織開発、労務などを幅広く担当し、後半はチームマネジメントを経験。 2011年にIMAGICAグループに移りグループ人事を担当、以降、2014年よりライフネット生命にて人事総務部長、2017年より電通デジタルにて人事部長を歴任。 2020年4月よりリクルートワークス研究所に参画、現職。 2014年東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻(MOT)修了 

 

Worksが「書く力」を特集した理由

ーー『Works』は人や組織にまつわるテーマが取り上げられることが多いですが、2020年12月号で「書く力」を特集されたのはどういった理由があったのでしょうか。

コロナ禍でのオンラインのマネジメントや働き方について取材をしていたとき、ある方が「こういう状況になって書く力の差が顕著になっている」というお話をされたことが印象に残ったのです。

確かに、対面で話すことが強制的にできなくなり、メールやチャットでのテキストコミュニケーションが非常に増えています。例えば、トラブルが発生しても、コロナ以前なら菓子折を持って直接謝罪に行くこともあったでしょうが、この状況下ではそれはできないので、テキストで誠意を伝えなければなりません。

一方で、編集部でも「書く力ってきちんと習っていないよね」という話になりました。読書感想文を書かされた記憶は誰しもあると思いますが、文章の書き方をきちんと教わった方は少ないと思います。これは日本だけの話なのか、欧米ではどのように文章の書き方を学んでいるのだろうかなどと興味が広がっていき、特集してみようと決めたのです。

——「書く力」の特集では、人事界隈の方のみならず学術的な分野の方にも取材をされていて、さまざまな視点で書く力を掘り下げている印象を受けました。この特集を通して、最終的に書く力とはどういうスキルだと思われましたか。

取材を通して見えてきたのは、書く力というアウトプットの部分よりも、「インプットがどれくらいされていて、それがどれくらい自分の中で整理されているか」が重要だということでした。

書く力という筋力を鍛えることはもちろん必要なのですが、そのベースとなる自分の中のデータベースが不足していたり、情報が整理されていない場合、どれだけ書く筋力を鍛えてもアウトプットができない。つまり、書く力という筋力の話はとても断片的な話だということなのです。

今回の特集で取材した言語脳科学者の酒井邦嘉氏が、インプットし理解したものを『普遍文法』と表現されました。つまり、頭の中できちんと整理された『普遍文法』から表に出すことが書くということなのです。この一連の脳における言語処理の流れが前提として重要だと思いますね。

そのうえで書く力という筋力にフォーカスをすると、私たちがここを鍛えてきていないのも明らかです。名古屋大学の渡辺雅子教授がアメリカの大学に留学をしたときの話が象徴的です。彼女はアメリカの大学で「いくら一生懸命レポートを書いても評価不能だと言われた」のだそうです。その後、米国におけるエッセイの型を習得して、それに沿って書いたら成績が上がっていったとのこと。

つまり、私たちは書き方というか、書くときのフレームを習ってきていないのです。基本を習っていない中で一生懸命アウトプットしようとするから不安になるし、センスを問われているような気になるわけです。基本的な部分が欠けているのに、その先の表現力を求めてしまうから書くことが苦痛になるのではないでしょうか。

——確かにそうかもしれないですね。教育の場で基本的な書き方を習うことは本当に少なかったという印象はありますね。

同じく今回の特集でお話をうかがった、河合塾講師で小論文を教える小池陽慈先生は「構成力と表現力は別」であり、「文章力において大事なのは構成力」だとおっしゃっていました。

構成力はある程度学べばみんな一定のレベルまでは必ず到達する。それをみんな学んでいないだけなのです。表現力はセンスによるかもしれませんが、構成力は誰もが学んでトレーニングをすれば一定のレベルまではいけるということがわかりました。

——表現の仕方やセンスのいい文章を書くことに気をとられて、書くことをあきらめてしまう人は少なくないですよね。

そういう人は多いですよね。しかし、構成力というベーシックなスキルを使って、ある程度形にすれば、文章的にそこまで魅力的でなかったとしても伝えたいことを的確に届けることはできます。そこに表現力が加わるとさらに読みやすくなって、読み手の感動の度合いが変わるということだと思います。

 

佐藤編集長が書くときに意識することとは

——佐藤編集長はもともと事業会社で人事としてのご経験が長いと思います。人事として働いていたときのご自身の書く力にまつわるご経験も教えていただきたいです。

人事のときは、長い文章を書くことはほとんどなかったですね。業務上で書く機会があったとしてもメールやパワーポイントが多くなります。あえて挙げるとすれば、採用や育成の場面で学生向けに発信したり、社内の若手やトレーニングを受ける人向けにブログで発信するといった機会に文章を書くことはありました。割と長めの文章を書いていたとはいえ、話し言葉の文章化といった色合いが強く、振り返ってみると構成はかなり怪しかったと思います。

きっちりとした文章を書くことになったのは、編集長になってからかもしれません。今回の書く力の特集では私が一番勉強になったかもしれません(笑)。取材を通して自分の力不足を痛感しましたからね。

ただ、思い返すと数年前にMOT(東京理科大学大学院経営学研究科技術経営専攻)に通っていたとき、論文やレポートがうまく書けずに壁にぶつかったことはありました。そのときは課題の本質に気づかず、何とかやりくりしてしまったので、しっかりと書くことについて学び直すことができませんでした。私の場合、そのチャンスは何度かあったと思いますが、書くことの重要性や必要性を痛感することなくここまで来た感じがあります。

——そうだったんですね。そうした状況だったとしても、ご自身で文章を書くときにどういったことを意識されているのでしょうか。

自分の中のデータベースをいかにクオリティの高いものにしておくかを意識しています。そのために、インプットする情報の量と質を担保し、常に引き出しを整理しておくことを心掛けていますね。引き出しがキチッと整理されていると、出すときにスムーズに脳内でディレクションができてアウトプットに繋げることができると思います。

私の場合はどちらかというと、そのデータベースから情報を引き出して人に話すということについてはそれなりに場数を踏ませていただいていると思います。「話す」と「書く」は異なるので、書くために必要な構成力に繋がる筋力トレーニングが必要だということが今回の取材で明らかになりましたね。

——アウトプットするためにインプットしたデータベースを整理するとは、具体的にどのような作業をおこなっているのでしょうか。

長年人事をやってきたので、採用やキャリアといった人事テーマに関することであれば、自然に自分の頭の中で情報が蓄積されていて、テーマごとに整理されているので、相手にあわせて引き出しからアウトプットすることが可能です。

一方で、蓄積がない新しいテーマは多くの情報を集めながら、自分なりにカテゴリー分けをしたり、断片的な情報の繋がりを探るなどして、全体の構造を理解することを意識していますね。頭の中で表を作ってみたり、グラフ化してみたり、図解を作ってみたり、という感じでしょうか。

——それは面白いですね。頭の中で一番理解しやすい形でインプットしたものを整理しているんですね。

これは振り返ってみると、実は新卒で入社した会社で鍛えられたのかもしれません。書く力という筋力としてはあまり意識することはありませんでしたが、多くの情報を整理して課題を発見したり、提案に繋げていくという業務の中でそのベースは鍛えられていたかもしれませんね。

 

人事が書く力を身につけたほうがいい理由

——いまの人事の人たちはどういったシーンで書く力が問われているのでしょうか。

人事の人が、あらためて長い文章を書く機会はなかなか無いですよね。

ただ、経営に近い立場になると、社内外を問わずメールやSNSなどを使って発信する機会は増えると思います。さらに、多様な人材が集まることによって組織のパフォーマンスを高めていこうという流れにあって、様々なバックグランドをもつ社員に何かを伝える場面では、より高い構成力が求められているといえます。

——Worksの中で「組織の中でちゃんと書く力を標準化し、かつちゃんとフィードバックしなければならない。そのための組織を作るべき」と書かれていましたよね。これは非常に理解できるのですが、人事の日常業務の中で、書いたものに対して細かくフィードバックして、標準化するところまでやり切ることはなかなか難しいと思うのですが……

まず、書いたものに対してフィードバックするためには、基準がバラバラにならないように、みんな同じフレームを共有する必要があると思います。

同じ書き方のフレームをみんなで共有すると、例えば、ダラダラとよく分からないメールを若手社員が送ってきたときに「フレーム通りだと、結論から伝えるんだったよね?」とフィードバックしやすいですし、フィードバックを受ける方も納得しやすいですよね。

フィードバックを繰り返すことで、その書き方のフレームが若手に浸透していくし、書き方にも慣れていきます。慣れてくるとそれにアレンジが加わって、さらに伝わる文章へとブラッシュアップされるでしょう。

ただ、今の若手は、私たちの世代と比べると書いて発信する機会は多いと思います。SNSツールが身近な年代なので、多少偏りはあるかもしれませんが書く力がないとは私は思っていません。逆に上の世代の方が実は書く力が乏しいのではないかと思いますね。

——若手の場合はSNSで場数を踏んでいて、しかも「いいね」やシェアによってリアクションをもらっていますからね。

しっかりとした構成を考えて長い文章を書くスキルについては分かりませんが、新しいツールを活用したテキストコミュニケーションにおける習熟度という意味では、20~30代の若手の方が上手だなと思うことは多いです。Slackなどのチャットツールを使ってプロジェクトを進める場面では、驚くほどコミュニケーションがスムーズだと感じます。

彼らの強みを活かして、リバースメンタリング的な感じで、「SNSでこういう風に発信すると、こんなに盛り上がってこんなに広がるんですよ」という事例を若手社員からミドルシニア層の社員が学ぶ、といったことも必要かもしれません。これはあくまでも新しいツールを使いこなすという話ですので、伝える内容についての構成という観点で誰かがしっかりチェックして必要なフィードバックが機能することが、合わせて必要になると思います。

——最後に、書く力に対して悩む人事に一言お願いします。

Worksで書く力を特集しましたが、私たちが伝えたかったことは「みんなで長い文章を書けるようになろう」という話ではなく、インプットからアウトプットまでの一連の流れをきちんと把握して、コアとなるデータベースの量と質をいかに上げていくかということがすべての基本になるということです。

データベースがしっかり構築できていれば、あとは伝わる文章の構成を理解して身につけることで、一定レベル以上の文章を書けるようになります。これを繰り返していくことで、書くことに対する抵抗感や苦手意識も少なくなるのではないでしょうか。

Written by

Ayumi_Ooi
CANTERA NOTE 副編集長 1980年大分県生まれ。2003年早稲田大学卒業後、教育系企業に就職。営業職、ホームページ運営・Webマーケティング担当を経て、2007年頃からライター活動を開始。 2009年立川経済新聞編集長に就任。2012年3月からシンガポールに移住。滞在中はシンガポール経済新聞編集長として活動するほか、2014年8月から大手女性向けメディアの立ち上げに現地から参画する。2015年3月に帰国し、同メディア編集長に。同年10月より再びフリーライター・編集者として活動する。2017年8月、エディット合同会社設立。
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