これから最低限必要な3つの組織マネジメント手法
はじめに
しかし、今回の緊急事態宣言に代表されるような環境面での急激な変化には、その場しのぎ的な対応を強いられている人事も多いのではないでしょうか。
いくつもの企業の人事サポートを請け負っている当社としては、こんな時だからこそ基本に立ち返り本質的な施策を打っていくことをオススメしています。なぜなら応急処置的な対応は一時的には必要ですが、その後には根本的な対応をしていかなければ、この後の不透明な時代を生き抜いていくことができなくなる可能性が高まるからです。
では、これからの組織が生き残っていくためにはどうしたらよいかというと、当社では最低限以下の3つの組織マネジメントを人事が主導して行っていく必要があると考えています。その3つとは、
1)ダイバーシティ・マネジメント
2)エンゲージメント・マネジメント
3)モチベーション・マネジメント
です。
全ての名称について人事であれば知っている方がほとんどだと思いますが、現在社内でどのぐらい運用されているでしょうか。重要なことは上記3つを本当の意味で「実践」していること、そして経営にとって必要な「成果」が上がっているかどうかということがポイントになります。
人事は人と組織をつくる
さて、そもそも人事の仕事とは何でしょうか。大前提から捉え直すと人事とは経営の重要な機能であり、経営の4大資源である「ヒト、モノ、カネ、情報」の中でも最も扱うのが難しいと言われている「ヒト」を扱います。
企業が掲げる経営目的であるミッション=経営理念を実現していくための重要な資源であり仲間である人を扱い、ミッション達成に向けた組織を創り上げていくのが人事の役割なのです。
そんな人事がこれからの時代に必須で取り組むべき最低限の施策が前述の3つであると考えています。
もっといえば上記3つの施策を人事「だけ」で行うのではなく、経営・現場を巻き込み、連携しながら進めていくことが重要です。具体的なTIPSを含んだ事例については個別の記事にて紹介していきますが、本記事ではそれぞれの特徴と押さえておくべき考え方について触れていくことにします。
ダイバーシティ・マネジメント
ダイバーシティについては一昔前から認知されているため、ほとんどの企業で実施している施策のひとつではないでしょうか。念のため意味をおさらいするとダイバーシティとは「多様性」を意味します。
ただ残念なことに、ダイバーシティというと日本ではいまだに「女性活躍」や「外国人採用」という文脈で捉えられることが多く、個別の採用枠や労働枠を用意しているだけで、組織的にうまく機能させ生産性や創造性を高められている企業はまだまだ少ないのが現状です。
本来のダイバーシティとは「ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包括)」であり、人はそれぞれ個別で多様であるという前提から、個人の特性を優劣ではなく違いだと認識することからはじまり、その多様性を認め活かすことで、これまででは表に出てこなかった視点での発想や化学反応を生み出し、創造性や生産性を高めたりイノベーションを起こしていくためのマネジメント手法のひとつです。
そういう意味でダイバーシティを実現していくためには、旧来の日本企業が得意としてきた上意下達の「管理型」の枠にはめるマネジメントではなく、個々の特性を認め可能性を信じ活かしていく「委任型」のマネジメントに組織を切り替えていく必要があります。
組織の形態もトップダウンよりもよりフラットに近く、中央集権よりも自律分散に近くなります。トップダウンの組織では言われたことを忠実に行い規律を守ろうとする社員は増えますが、創造や変革を生み出そうとする社員が育ちにくいという特徴があります。経営幹部育成で頭を悩ませている企業のほとんどがトップダウン型であるとも言われています。
一方、フラットとまではいかなくとも、実際に権限移譲を進めてみたり、提言できるようにしたり、情報を見える化してコミュニケーションを活性化させるなど、トップダウン、ボトムアップ、ミドルアウトを上手に組み合わせることによって社員の自律性を高め、リモートワークの環境下においても自律的に生産性高く仕事を行う社員が育っている企業が増えているという現実もあります。
これは余談ですが、最近のリモートワークの環境下において、「管理型」のマネージャーが部下が真面目に業務を行っているかどうかが信じ切れず、管理どころか監視するようなマネジメントで上司部下ともども疲弊してしまうという笑い話のような本当の話が話題となりました。ダイバーシティが本当の意味で機能していない会社ではリモートワークでは生産性が高まるどころか下がってしまうという可能性を示唆した一例であるようにも捉えられます。
ダイバーシティ・マネジメントを実践するということは、人の可能性を信じることで企業の可能性を最大化することであり、結果企業のミッションに向けた、創造性と自律性に溢れる人と組織を作るという「成果」をつくりだすということでもあるのです。
エンゲージメント・マネジメント
エンゲージメントについても一昔前から認知されている言葉ではありますが、意味としては「従業員の会社に対する愛着心」です。ただエンゲージメントについても誤解が多く、よくあるのは「従業員満足度」と混同されがちです。
従業員満足度とエンゲージメントはイコールではありません。ではそれそれ何が異なるのかというと、従業員満足度は言葉の通り従業員が会社に対してどのぐらい満足しているかという顧客満足度のような指標ですが、エンゲージメントはそうではありません。
エンゲージメントとは「従業員が会社に愛着を持ち、目標達成に向けての行動を自律的に行う状態」であり、もっと言えば「会社と個人が対応な関係であり、互いに成長・貢献し合える関係として必要とし合っている状態」と言えます。そのため、従業員満足度が高くても会社の生産性や定着率とは連動しないことがあるのに対して、エンゲージメントが高い会社は生産性や定着率が高くなる傾向が強いと言われています。
では、このエンゲージメントを高めるためにはどんなポイントを押さえればよいのでしょうか。エンゲージメントについては様々な機関によってそのポイントが提唱されていますが、当社ではまずはシンプルに以下の4STEPでサイクル化することを推奨しています。
STEP1)所属感…周囲から認められ、この組織に属している、この仲間といて安心だと認識している(安心安全の場づくり)
STEP2)所有感…自身の仕事の意義や価値を理解し、組織や顧客に自分が良くも悪くも影響を与える存在だと感じている(自社を自分のものにできる)
STEP3)貢献感…自組織や仲間に対し貢献したいと考え、実際に貢献し、周囲から認められている(与えてもらったものを返したいという相互依存関係)
STEP4)成長感…自組織や仲間への貢献のために、より成長したいと考え、実際に成長に取り組むことで成果が得られ、成長感を感じられている(相互依存が成長を生み出し、成長が周囲に認められる)
上記のサイクルを回す職場づくりをすることで、個人と組織がともに与えあい、貢献し合い、成長し合うという、自律的な相互依存関係が生まれます。詳細は個別の記事でも記しますが、例えば「エンプロイー・エクスペリエンス・ジャーニーマップ」と呼ばれる、従業員が採用面接から入社、オンボーディング、配属、実務、成果、評価、異動昇進、退職というプロセス毎にどんな体験を提供することでお互いに良い関係になれるかという設計図を作成するなどしながら、実際に施策を打っていくことが求められるでしょう。
モチベーション・マネジメント
さて、突然ですが質問です。
「あなたは自分の部下や身近な同僚がなぜ自社で働いているか、その理由を知っていますか?」
この質問に対し、明確に答えられる方は非常に洞察に優れ、また相手を理解する能力にたけた方でしょう。ただしほとんどの場合はすぐに思い浮かばない方が多いのではないでしょうか。
モチベーションとは意味としては「動機」「意欲」であり、従業員は必ずこのモチベーションも持っています。モチベーションが適切に作動すると人は信じられないぐらいの能力や集中力を発揮し、生産性が非常に高まると言われています。
しかしモチベーションは一見すると表面には見えにくい場合や、モチベーションが適切に作動しない環境を会社自体が提供してしまっている場合もあります。そのため、人事はこの従業員のモチベーションの源泉を理解し、適切にマネジメントを行い、経営の「成果」を高めていくことが求められます。
そもそも、人が働いているには必ず理由があります。そしてその理由は人によって異なります。
例えば、働くことによって何かの報酬を受け取ろうとしている場合、報酬と一言で言っても何を報酬と感じるかは人によって異なります。報酬の中には給与・待遇・地位・名誉などの「金銭的報酬」と言われるものだけでなく、承認欲求・親和欲求・貢献欲求・成長欲求などの欲求を満たす「意味的報酬」があります。似たような意味の言葉で「外発的動機付け」や「内発的動機付け」も良く聞く言葉ですね。金銭的報酬は外発的動機付けに近く、意味的報酬は内発的動機付けに近いというものです。
どちらがいいとか悪いとかいう話ではなく、人は何に動機を感じるかは人それぞれであるため、まずは従業員それぞれのモチベーションの源泉を理解することによって、会社としてどんな施策を打つかが決まってくるということです。
人事としてやるべきことは、従業員の人間性や働く動機を本質的に把握し、その情報をもとに社内制度や採用・育成手法の変更、ダイバーシティやエンゲージメントの向上に活用していくことです。
おわりに
ここまで、これからの人事が必須で取り組むべき3つの組織マネジメントとは、について記してきました。
この3つだけやればよいというわけではありませんが、これからの人事に求められる経営視点での人事、戦略人事として機能していくために意識しておくと良いと思われるポイントをまとめさせてもらいました。
すでにお分かりの通り、この3つは全てリンクしており、それぞれに影響を及ぼしています。企業にとってのゴールであるミッション・ビジョンに向かって、人と組織をどう作り上げていくのか。目の前のことに対応するだけではなく、経営目線で組織を創り上げていく人事を目指す方々への少しでも役に立つ記事となれば幸いです。