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キャリア自律とは何か

キャリア自律とは何か

キャリア自律の定義

調べてみると「キャリア自律」という言葉に世界共通の定義はないようです。英語表現として該当するのは”Career Self-Reliance“と言われていますが、ジョブ型の雇用システムが前提である欧米においては転職は一般的な概念であることからも、この表現には「自律的」といったニュアンスは強調されていません。

では、日本における「キャリア自律」の定義を見てみましょう。
・「めまぐるしく変化する環境のなかで、自らのキャリア構築と継続的学習に取り組む、(個人の)生涯に渡るコミットメント*」*花田光世・宮地夕紀子・大木紀子(2003)
・「キャリア自律の新 展開─能動性を重視したストレッチング論とは」『一橋ビ ジネスレビュー』51 巻 1 号.

つまり個人が自ら今後のキャリアについて主体的に考え行動することとも言えます。続いて、なぜ「自律」という表現が強調されているのかを考えてみます。そこにはキャリア自律が求められるようになった背景が大きく影響しているようです。

そもそもキャリア自律には2つの視点が存在することはご存知でしょうか。個人と企業の2つの視点です。

個人の視点でのキャリア自律については、今後のキャリアを考える際にポジティブな捉え方をするケースとそうでないケースがあるようです。
ポジティブな捉え方は、自発的な学習や能力開発、人脈形成などを行い自らの成長や自己実現のために組織に依存せず積極的にキャリア形成するケースです。このケースでは転職ありきではなく、自社内での部署異動も対象となります。

一方、ネガティブな捉え方は、第四次産業革命をはじめとするデジタル化による経営環境の急激な変化や人生100年時代といったライフスパンの長期化、日本の終身雇用制度の限界といった構造的な変化によって個人が企業に自身のキャリアを安心して委ねることができなくなり、やむを得ず自律的にキャリアを考えざるを得なくなったケースです。

次に企業の視点でのキャリア自律についてです。こちらも2つの視点が存在します。
1つは社員個人の成長や能力開発を企業の成果に結び付けるべく、社員に企業内でのキャリア形成のあり方について考えてもらうパターンです。基本的に自律的な人材には自社内に留まってほしいとほとんどの企業が思いますよね。

そしてもう1つは逆のパターンです。人材活性化の観点や終身雇用の限界といった制度疲労を踏まえ、早期より将来のキャリアについて社員自身に考えてもらうことで採用から退職の代謝を高めようという考え方です。

このようにキャリア自律には大きく分けて4つのパターンが内包されており、いずれにおいてもこれまでの日本型雇用慣行の崩れに伴い個人が組織にキャリアを委ねるのではなく「自律的」に考えることが大切になったという見方ができると思います。

リンダ・グラットンの”LIFE SHIFT”を読めば、誰しもこのままで大丈夫だろうか?と一度は不安になりますよね。
既に私たちは自らのキャリアに責任を持ち、主体的にデザインしていかなければ生き残れない時代に突入しています。

自立と自律の違い

とまあ、これまでは理屈っぽい内容でしたが、ここからは主観的・概念的な話をしていきます。

キャリア自律といいますが「キャリア自立」ではダメなのでしょうか。結論、やはり自律であるべきなのだと思います。

自立と自律、2つの単語の意味は大きく異なります。自立は他者の助けなしに一人で物事を行える状態、例えば経済的自立とか言いますよね。一方、自律は自らがたてた規範に従って行動できる状態を指します。

キャリア自立は下手をすると周囲の環境変化に気づかず自己満足して停滞してしまうリスクもあります。キャリア自律であれば、外部環境の変化も踏まえつつ自らの理想とする姿とのギャップも冷静に捉えながら自分なりの「ありたい姿」を描くことができそうです。

今の時代背景を踏まえると、自らがやりたいことだけをやるのではなく、周囲のニーズも踏まえながら自分を律し、自己実現できるような人材が求められているのではないでしょうか(もちろん、自分がやりたいことに集中することはとてもいいことですが)。

「やりたいことがないといけない」という強迫観念と教育の罪

当然、誰しもキャリアを自律的に考えてみたいものです。ただ、安易にキャリア自律を強要すべきでもないと感じています。

そもそもこれまでの日本の雇用システムや職場環境、今の日本の教育現場において、将来やりたいことを考えたり、そのための参考になるような機会は十分に提供されているでしょうか。

最近でこそ、入社後に定期的なキャリア面談の実施やキャリアコンサルタントの拡充がなされたりと工夫されていますが、制度と違って人はそんなにすぐ変われません。

常に自律的にキャリアを考え将来が明確な人もいれば、正直何をやりたいのかすらわからない人もたくさんいます(そんな私も大学時代、就職して何がしたいのかイメージできていませんでした)。

もちろん、学校や企業は個人が自らのキャリアを考えられるような機会を諦めず提供し続けるべきだと考えています。常に「問われる」ことは「思考」することに繋がり、その繰り返しによって自分の将来のありたい姿の解像度が高まっていくからです。

ですが、「やりたいことないの?」「やりたいこと見つかった?」と「問い詰める」ことは避けるべきではないでしょうか。やりたいことがないとダメなんだ、と相手を無意識に追い詰めてしまう可能性があることに私たち人事は十分に注意すべきだと思います。

キャリアを自律的に描けるかどうかは、その人の心の状態で決まると言っても過言ではないのではありません。社員を、キャリアを自律的に考える人材に「する」ことはできませんが、そういった人材に「なる」ための機会を提供し続けることが人事の役割なのかもしれません。

キャリア自律を支援するために必要なこと

社員が自律的にキャリアを考えられるような機会の提供が重要であることは前述の通りですが、具体的に何をすればいいのでしょうか。

一般的には入社後、節目の年や40代、50代のタイミングで「キャリアデザイン研修」などをキャリアコンサルタントを招いて実施するケースが多いですよね。このような機会を定期的に設けキャリアに関する「問い」を浴び続けることは一定の効果があると考えています。

一方、社内リソースへの十分なアクセスを可能にしている企業が意外にも少ないと感じています。

社員は基本的に自らが所属してきた部署しか経験していないわけで(当たり前ですが笑)、他の部署にどんな社員がいるのか、どんなビジネスモデルなのか、どのような職場環境なのかを網羅的に把握できているケースは稀です。
よって、自社内でのキャリア形成のあり方を考えられるようにするために、部署横断+対象社員より少し年次が上の社員を招いての座談会の実施等、社員が自社内でどのような成長を実現できるのか、他にどんなワクワクしたチャンスが眠っているのかを知る機会を提供することは企業にとっても個人にとってもメリットのあることだと思います。

自社にとって理想的とされる採用と退社の代謝速度を踏まえ、どのような機会を、いつ社員に提供することがベストなのか、常に情報にアクセスできる状態になっているか、そういった観点で準備ができれば社員のキャリア自律を支援することができるのかもしれません。

Written by

CANTERA ACADEMY3期卒業。 新卒で伊藤忠商事に入社。入社後は人事・総務部配属となり、新卒採用・海外人事(駐在員処遇、出向対応、現地生活調査等)に従事。2018/7にHR Tech、データ活用組織を立ち上げ、その後全社研修企画も兼務。2019/7より全社で新設された「第8カンパニー」の人事担当を務める。一般社団法人トラストコーチング認定シニアコーチ。
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